敷島ファームの脱炭素への挑戦。「ゼロカーボンビーフ」販売を目指す
2023/10/20
栃木県と北海道を拠点に、約11,000頭の黒毛和牛を飼育している敷島ファームでは、「ゼロカーボンビーフ」プロジェクトと称した多様な取り組みを展開している。これからの時代に消費者から選ばれるために力を入れる、その現状を取材した。
メイン画像:仕切りが外されると、真っ先に母牛のもとへ向かう子牛。
温室効果ガスの排出量を
実質ゼロにした和牛生産
2011年の設立以降、黒毛和牛を専門に飼育する敷島ファームは、2018年に農場HACCP認証、2019年にJGAP認証を取得。近年、「働く人の幸せを追求する」を新たな目標とし、農場スタッフの労働環境の改善にも取り組んでいる。
栃木県那須町にある敷島ファーム。敷地内には、直営のレストランやホテルがある。
畜産業界や地球環境を持続可能なものにするため、敷島ファームが打ち出したのが「ゼロカーボンビーフ」プロジェクトだ。その具体的な内容をご紹介する前に、「ゼロカーボン」の概念を振り返りたい。ゼロカーボンは、人為的に発生した温室効果ガスの量と、森林など吸収源によって除去された温室効果ガスの量を等しくすることを指す。温室効果ガスの排出量を具体的に算出・把握した上で、別途、温室効果ガスを削減、あるいは吸収・固定するための取り組みを行う。排出された温室効果ガスが相殺されることで、ゼロカーボンが実現される。
敷島ファームが展開する「ゼロカーボンビーフ」プロジェクトは、上記の考え方をベースとしたもの。一般的な牛舎では、牛ふんの堆肥化や牛の運搬といった経営上必要な作業が行われる過程で、温室効果ガスが排出される。しかし敷島ファームでは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすべく、炭素の吸収・固定能力がある植物の栽培など、多様な対策を実施。さらには、一連の対策を通し相殺された温室効果ガスの量を数値化するため、一般企業との共同研究にも乗り出した。
敷島ファーム 常務取締役 畜産部部長 五十嵐将光さん
敷島ファームの畜産部部長である五十嵐将光さんは、今後の展望とプロジェクトに託した思いを次のように語る。
「相殺される温室効果ガスの量が明確になった暁には、弊社の黒毛和牛を『ゼロカーボンビーフ』として売り出す予定です。『ゼロカーボンビーフ』は、今後、付加価値の高い肉牛として国内外で評価されるはず。すでに欧米圏では、環境への配慮のもと生産され、環境への貢献度が数値化された肉牛が評価されつつあります。日本でも、こうした流れが強まっていくでしょう。『ゼロカーボンビーフ』は、地球環境と日本の畜産業界を持続可能にする上で役立つと考えています」。
ゼロカーボンビーフの
生産に向けた主な取り組み
➀牛群改良による肥育期間の短縮
「家畜改良事業団」の協力のもと、新技術「ゲノミック評価」を利用した牛群改良の共同研究を開始。品質と重量を落とさず、黒毛和牛の肥育期間を短縮する方法を採用した。肥育期間を短縮すると、一頭の牛から排出されるゲップや排せつ物の量、そして温室効果ガスも減少する。
➁牧場間長距離輸送の削減
長距離輸送がきっかけで体調を崩す子牛が一定数いたため、2021年より敷島ファームは、子牛を出生地で育て上げる「生育完全一貫生産体制」を導入。大型トラックや船を使っての長距離輸送の回数を減らし、輸送の際に排出される温室効果ガスの削減にも成功した。
➂巨大ススキとソルガムの栽培
炭素の吸収・固定能力がある「ジャイアントミスカンサス」、手間をかけずとも旺盛に育つ「エリアンサス」、ソルガムを栽培。ジャイアントミスカンサスの能力の数値化と、これらをバイオマス燃料や家畜の飼料・敷料として活用するための研究を進めている。
➃荒廃・遊休農地への有機炭素貯留促進
牛糞堆肥などの有機質資材を土壌に投入することで、土壌の有機炭素貯留量が増加し、温室効果ガスの削減につながる。この点に着目した敷島ファームは、自社で運営する農園やジャイアントミスカンサスの試験圃場など幅広い圃場に、自社の牛舎から出た堆肥を施用している。
AGRI JOURNAL vol.29(2023年秋号)より転載