みかん畑での草生栽培実践のメリットは? 急傾斜地で栽培する有田みかんのこだわりと工夫
2024/01/30
海と山に囲まれた、和歌山県有田川町。400年以上前から続くみかんの名産地で、草生栽培によるみかんづくりをする農家がある。「まつさか農園」のこだわりと工夫とは?
メリットばかりではない“草生栽培”を
追求する理由とは
温州みかんの生産量において、日本一を誇る和歌山県。なかでも有田地方で栽培される「有田みかん」は、日本を代表するブランドのひとつだ。温暖な気候、山の傾斜地を活かした水はけの良さといった好条件が揃う有田地方では、遡れば室町時代から石積みの段々畑でみかん栽培が行われてきた。
そんな歴史ある土地の一角に、家族経営の小さな果樹園「まつさか農園」がある。50年以上この地でみかん栽培を行い、約10年前に三代目の松坂進也さんが継業。こだわりのみかんづくりを続けてきた。
まつさか農園の特徴は、みかん畑一面が緑の絨毯に覆われていること。祖父の代から下草をあえて生育する「草生栽培」を実践し、進也さんが引き継いでからは、草のコントロールをより強化。草の特性を理解しながら畑ごとに適した品種の草を選別して種を撒き、草を抑制・管理。より効率的な草生栽培を追究しているという。
地面を被覆して雑草を抑制するクラピア。土をしっかり掴むので土壌流亡を防ぐこともできる。
「機械も入らない急峻な傾斜地なので、自然の力をなんとかうまく利用して価値あるみかんを作りたい。そこで活きるのが、草の力なんです。草生栽培によって、水の蒸発が抑制されたり、土中炭素量や微生物が増加したり、より吸収しやすいミネラルが土中に還元されたり、数値化できない様々なメリットが考えられます」。
さらに、コストの面での利点も。草と共存する草生栽培では、除草剤散布を前提にする必要がない(まつさか農園では、草の勢いが強すぎる時に必要に応じて除草剤を適量使用)。また堆積した草が腐葉土となることで有機物を供給し、堆肥の量を減らせるという。
とはいえ、メリットばかりではない。草管理に多大な労力を要するのだ。春から夏にかけての時期は、成長著しい草をひたすら倒す作業に追われ、毎日が草との戦いだという。
「効率性を考えたら草生栽培は、ベストではない。僕が草生栽培をする一番の理由は、美しいから。自然と調和した風景は、草生栽培ならではの魅力。草を生やしっぱなしでもダメで、人の手が入ってこそ調和の美しさが保たれる。また、こんな場所で育てられたという背景を伝えることで、お客さんの“美味しい”にも貢献すると手応えも感じています」。
草生栽培で効率化に一役買う
「E-Catkit」の魅力
E-Cat kitを取り付けた一輪車。凸凹の傾斜地でもなんのその。
草生栽培をする上で、日頃からできる限りの効率化を図っているという進也さん。強い味方のひとつが、農作業用猫車電動化キット「E-Catkit」だ。手持ちのねこ車(一輪車・手押し車)に取り付けられる電動アシストタイヤキットで、傾斜地やでこぼこ道の運搬に役立つスグレモノ。まつざか農園では、2020年にE-Catkitを導入し、傾斜地での収穫物、肥料、資材の運搬に重用しているという。
傾斜地に石積みの段々畑が続く。不整地の狭い通路は、一輪車が有用だ。使い慣れた一輪車にE-Cat kitを取り付けて活用する。
「もともと土を運ぶ時など農業機械用クローラーを使っていましたが、横の軸ずれに弱いクローラーは横転リスクがあり、急斜面の畑では一輪車を使っていました。E-Catkitの良さは、使い慣れているものに取り付けられるモジュールであること。一輪車を簡単に電動化できたので、それまでの動線や作業内容にフィットさせて使うことができます。軽くて運びやすいので、傾斜地以外でも活用場面が増えました。その分、平坦地でもクローラーを使わなくなったのは予想外でしたね」。
草と向き合い、年々畑の状態も向上。それに比例するように、『樹上熟成 灯みかん』という特選みかんが、2022年全国みかん選手権で最高金賞を受賞するなど、評価や人気も上げ調子だ。
限られた園地で約1ヶ月樹上熟成させた『樹上熟成 灯みかん』。
「食べたら幸せになれるような美味しいみかんを、一般の人の手に届く価格で提供していく。こだわりを貫きつつ、経費を抑え、効率化もして、その目的を達成していきたいですね」。
『樹上熟成 灯みかん』は、甘みと酸味の最高のバランス。リピーターでほぼ完売。
写真・文:曽田夕紀子
AGRI JOURNAL vol.30(2024年冬号)より転載