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【JGAP畜産】働く人が働きやすい環境に。人財不足の課題解決につながる

畜産の問題解決のキーワードとなるのが、「JGAP畜産」。岩手県の南端、高原に広大な農場を構える(株)アークは、JGAP畜産認証が始まって間もない2017年から認証を取得したJGAP畜産認証農場の“大先輩”的存在だ。

<目次>
1.畜産業界が抱える問題の解決へ JGAP認証の取り組み
2.(株)アークのJGAP認証取り組みの一例
3.JGAP認証取得のヒストリー


畜産業界が抱える問題の解決へ
JGAP認証の取り組み

岩手県の南端、高原に広大な農場を構える(株)アークは、日本向けに育種改良されたバブコック・スワイン種のブランド豚「館ヶ森高原豚」と、その兄弟ブランド「館ヶ森高原豚ノア」の三元豚、あわせて約五千頭の母豚を飼育する、東北を代表するビッグファーム。
農畜産物の生産から加工・流通・販売、それぞれの事業部から出る廃棄物をリサイクルした有機肥料製造までの循環型農業を行う。JGAP畜産認証が始まって間もない2017年に養豚、2019年にブランド卵「昔たまご」の養鶏で認証を取得した、JGAP畜産認証農場の“大先輩”的存在でもある。

1972年に埼玉県深谷市で創業し、大規模農業ができる地を求めて岩手県へ移転。敷地内にはレストランや直売所、花畑やハーブガーデンを備えた「Ark館ヶ森」が建ち、豚肉やソーセージなどの加工食品、自社の有機肥料で育てた小麦のパンや旬の野菜を販売する。

「JGAP認証に取り組んだのは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックがきっかけです。選手村で提供される食材にはJGAP認証が要件になったためです」と話すのは、JGAP畜産認証後に入社した養豚事業部のチームリーダーの小澤礼弥さん。

「2013年に農場HACCP(※)を東北初で取得していたのですが、JGAP認証にはHACCPではカバーしていない労務に関する認証基準があり、これらを現場でどう実行していくかをゼロから組み立て、さらに文書化する作業に苦労したそうです」。

※HACCP:Hazard Analysis Critical Control Pointの頭文字をとった言葉で、食品の安全を確保するための衛生管理手法。2021年6月からは、原則としてすべての食品関連事業者に、HACCPに沿った衛生管理が義務化された。

 

敷地内に5か所の農場があり、小澤さん担当の黒木の沢農場では、大ヨークシャーとランドレース、デュロックをかけあわせた三元豚「館ヶ森高原豚ノア」を育てる。

 



 

JGAPでは、従業員の教育訓練をはじめ、労働安全管理や事故発生時の対応など、働く人が安心して作業できる環境の整備も認証基準の対象になる。

「JGAP認証後は、社員教育により力を入れています。豚に関する勉強会やJGAPの研修、機械設備の維持管理の講習会など、レベルの高いスキル取得を目指せる内容です」。

さらに労働安全のために最新のシステムも積極的に取り入れる。

「日々の業務となる飼料タンクの確認は、高所にあるタンクの上り下りに危険が伴い、すべてを見回るのに1時間はかかります。これを省力化するために、飼料タンク残量を管理するシステムを導入しました。パソコン画面で残量がわかるので、巡回作業がなくなり、その分、他の作業にまわせます」と小澤さん。

農場をめぐると、ゴミの分別から貯水タンクの施錠の徹底、危険な箇所には注意を喚起する看板の掲示などがこまめに行われている。

JGAPとHACCP認証の維持のために、農場内でチームを作って月に1回のミーティングを行っているんですよ。現場での実際の作業と適合基準の項目にずれがないかをチェックして、問題があれば改善します」。


飼料タンクの残量チェックは、株式会社YEデジタルの「Milfee」を採用。パソコンでタンクの残量が一目瞭然。「肥育事故率低減に貢献してくれます」と小澤さん。

こうして従業員が気持ちよく安心して働ける職場になれば、作業の省力化・効率化にもつながる。生き物を扱う畜産業は休みが取りにくいイメージがあるが、小澤さんの年間休日は、公休105日+有給休暇7日で合計112日。厚生労働省の「令和4年就労条件総合調査の概況」では年間休日総数の1企業平均は107日で、平均よりも多い。

「育休制度にも力を入れており、職場復帰の実績はもちろん、男性も約半年〜1年間の育児休暇の実績もあります」と小澤さん。JGAPは、食べる人への配慮(食品安全)、生産基盤への配慮(環境保全、家畜衛生、アニマルウェルフェアなど)に加えて、働く人への配慮(労働安全、人権の尊重)について適切な農場管理の実践を目指す。働く人が働きやすい職場をつくるJGAP認証取得は、人財確保や後継者育成、労働環境の改善といった日本の畜産業界が抱える課題解決にも貢献してくれる。

(株)アークのJGAP認証
取り組みの一例

家畜の排せつ物の管理

各豚舎から出た排せつ物の液体は、敷地内の浄化装置で処理される。固形物はグループ会社で有機肥料として販売、自家農場にも使われる。


衛生管理地区域の防護柵

野生のイノシシなどのくぐり抜け防止のために防護柵を設置。敷地に近づくと奇声を発する獣害撃退装置も備えている。


快適性に配慮した飼養管理

北上山系の豊富な地下水と、肥育期にはトウモロコシを一切使わない自家飼料を与えた豚たちは、体がむやみにぶつからない広い豚舎ですくすくと育つ。


農薬・肥料の管理

不適切な保管による誤使用や事故を防ぐため、「劇薬」と危険物表示をつけて取り違えないようにするなど適切な保管を行う。

JGAP認証取得のヒストリー


2013年:養豚部門で農場HACCP認証取得(東北の企業として初)
2016年:養鶏部門にて農場HACCP認証取得
2017年:養豚事業部JGAP認証取得
2019年:牧場事業部養鶏部門JGAP認証取得

PROFILE

(株)アーク 養豚事業部
坂の上/黒木の沢農場 チームリーダー

小澤礼弥(まさや)さん


「JGAPは整理整頓が基本。道具が一目瞭然でわかるように棚を自作しています」。

 



 


取材・文:後藤あや子
写真:村岡栄治

AGRI JOURNAL vol.31(2024年春号)より転載

 

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