【連載 4Hクラブ員の活動報告】「やりたい」を実現できるのが農業。自由な発想で創る新しい価値
2026.06.11
「ICHIGOOJI」は、コスメの開発・販売やイベント開催など、農園らしさに捉われない事業を展開している。代表を務める池田天瑠さんは、全くのゼロから農園と事業を築き上げた、若き異端児だ。
メイン画像:約40aの畑で大規模施設園芸に取り組んでいる。
PROFILE
坂井地区 4Hクラブ
池田 天瑠さん

兵庫県から福井県に移住し、2022年に「ICHIGOOJI」を設立。観光農園や「ICHIGOOJIカフェ&就労支援B型」などを運営。
常識に捉われない発想で
イチゴと栽培施設を活用
「僕の叔父が福井県で米農家をしており、子どもの頃から叔父が田んぼで働く姿を見ていました。カッコいい後ろ姿が印象的で、大学卒業を控えた頃、『農業で起業したい』という思いが強くなって。最終的に内定を辞退し、就農を決意しました」。
池田さんがイチゴを栽培品目に選んだきっかけは、JA福井県が展開している、栽培設備の導入支援事業。「農園を開くチャンスだ」と考えた池田さんは、すぐに事業にエントリー。見事に審査を通過し、支援対象者としての権利を勝ち取った。やや偶発的にイチゴを栽培品目に選んだものの、今では「あの時イチゴを選んでよかった」と思っているそう。

美容ブランド「Dr.BERRY」を立ち上げ、フェイスパックを開発。
「イチゴを作っていると、事業の幅を広げやすいです。観光農園を運営できるのもイチゴを作っているからですし、規格外のものはスイーツなどに加工できます。昨年は、イチゴのエキスを配合したフェイスマスクも開発しました」。

イチゴのハウスで開催したDJイベントの様子。
また池田さんには、イチゴの栽培施設がもつポテンシャルを引き出す姿勢もある。18〜21時にかけて摘み取り体験ができる「ナイト営業」を実施する他、栽培施設内でDJイベントや婚活パーティーを開催。なお、ナイト営業やイベントにやってくる層は、若いカップルや女性が中心だ。
摘み取り体験をするために農園にやってくる層は多くの場合、ファミリーが中心だが、ICHIGOOJIでは多様な層を農園に呼び込むことに成功している。農園としては珍しく、ユニークな取り組みを通し、栽培施設の新しい価値を生み出しているのだ。
地域で何十年、何百年と
存続する企業になるために
「ビジネスモデルとしての農業は、ブルーオーシャン。若い人が参入してビジネスを始めるには、うってつけの業界だと思います」と池田さん。既に新規で参入しやすい条件が整っているとも話す。
「まず、起業する際の資金調達については、サポートを受けやすいと思います。農業は、社会の土台である一次産業ですが、後継者不足といった社会課題が多い業界。そんな危機的な状況をふまえ、農業を支援する銀行もあるので、大きな額を融資してもらえる可能性が十分にあります。また耕作放棄地が増え、余剰の畑が続出しているので、以前よりは圃場を確保しやすいと思います」。
ただ、経営者として成功するうえでは、心得ておくべきことがいくつかあるという。池田さんが特に重視しているのは、地域住民とのコミュニケーションだ。
「農業経営者にとって、最も重要なのは地域内での信頼です。地域との関わりを大切にしながら農業経営をすることで、事業が安定しやすくなりますし、広がっていくとも考えています」。

「章姫」と「紅ほっぺ」を生産している。
池田さんは、ICHIGOOJIを立ち上げた頃から、地域の人々と関係を築いてきた。地域内には継ぎ手のいない田んぼを池田さんに任せる農家が多くいるため、近年、ICHIGOOJIでは稲作にも注力している。
これにより人手がさらに必要になったため、農業経営者を引退した地域のベテラン農家をスタッフとして雇用。今では彼らは、若手に技術を伝える役目も担っているという。また池田さんは、人手不足を補うためにラジコンヘリを使っての農薬散布を始め、これを機に、農薬散布も事業の一つに育て上げた。
創業以降、事業の規模を順調に拡大してきた池田さん。将来のビジョンについて、次のように語った。「ICHIGOOJIの知名度向上や事業規模の拡大も重要ですが、まずは地域に根ざした、信頼されるでありたいですね。地域で何十年、何百年と親しまれる企業にするのが目標です」。
文:緒方よしこ
AGRI JOURNAL vol.38(2026年冬号)より転載
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