果物の高級品種で盗難被害相次ぐ 「狙われる農家」の特徴は

丹精込めて育てた農作物を盗まれる被害が、全国各地で深刻化している。特に、これから収穫期を迎える果樹は標的になりやすく、山形県では2025年、盗難被害が過去10年で最多となった。農林水産省の全国調査から、盗難被害に遭いやすい農家の特徴を読み解く。

<目次>
1.山形では過去10年で最多の被害に
2.被害の半数は露地の畑|夜間や早朝に狙われる
3.狙われる品目の共通点|単価の高さと運びやすさ
4.少数被害が見えなくする泣き寝入りの悪循環
5.いますぐ実践できる被害防犯対策

 

山形では過去10年で
最多の被害に

警察のまとめによると、2025年の山形県内におけるサクランボ盗難は、山形市、寒河江市、南陽市、上山市、山辺町の4市1町で計5件の届け出があった。被害の合計は375キロ、185万円相当にのぼり、前年に比べて件数は1件増、被害は295キロ増、金額は約159万円増と、いずれも大幅に膨らんだ。

盗難の被害はサクランボにとどまらない。2025年はラ・フランスやスダチ、さらに玄米約450キロの盗難も確認されている。サクランボの盗難は2016年以降の10年間で、届け出があっただけでも31件、約498万円相当にのぼる。

こうした山形の被害は特異な例ではない。農水省が全国23道府県を対象に実施した調査(2019年6月作成資料)からは、盗難被害に遭いやすい農家にいくつかの特徴があることが見えてくる。

被害の半数は露地の畑
夜間や早朝に狙われる


農作物の盗難場所(出典 農水省)

注目すべき点の1つは栽培場所だ。農水省の調査によると、盗難被害が発生した場所はほ場、つまり露地の畑が48%と最も多い。ビニールハウスは7%、作業場は3%、倉庫はわずか2%にとどまる。屋内よりも、侵入しやすい露地の畑が圧倒的に狙われている

畑は夜間や早朝に無人となり、人目につきにくい。そのうえ収穫直前の作物は色づき、糖度も乗りきって最も価値が高い。屋外で育つ果樹の収穫期は、窃盗犯にとって狙いやすい時期といえる。屋根も鍵もない園地は、防ぎにくさという点で構造的な弱点を抱えている。山形県のサクランボ被害も、この構図と無縁ではないだろう。

狙われる品目の共通点
単価の高さと運びやすさ


盗難被害にあいやすい品目(出典 農水省)

2つ目は、何をつくっているかだ。農水省の調査で被害件数が多かったのは、モモ、ブドウ、リンゴ、サクランボといった果樹や、キャベツ、ハクサイ、イチゴなどである。果樹、とりわけ高級ブランド品種は高値で取引され、贈答需要も大きいため、単価の高い作物が狙われる傾向がみられる

山形のサクランボは、この両方の条件を満たす典型例といえる。高級ブランド品種は単価が高く贈答需要も大きいうえ、一本の木からまとまった量が取れる。なかでも固めの果肉で日持ちする品種は、「盗んで運んでも傷みにくい」ことから、ターゲットになりやすい。

2025年6月には山形県上山市で、高級品種の「佐藤錦」約200キロ、100万円相当が盗まれる被害があった。報道によると、収穫前の実を軸ごともぎ取って持ち去ったとみられている。この場所からは佐藤錦だけが盗まれていた。「高価な果物を、露地の畑で育てているケースが最も狙われやすいといえる。

少額被害が見えなくする
泣き寝入りの悪循環


農作物盗難被害の事案解決の有無(出典 農水省)

3つ目は、被害が表面化しにくいこと、そのものにある。

農水省の調査では、被害金額が把握できた事案のうち約9割が50万円未満だった。1件あたりの被害は比較的少額であることが多く、人手不足のなか、収穫の繁忙期に被害届を1件ごとに提出するのが難しい生産農家の現状がうかがえる。その結果、警察に通報がないまま、見過ごされる被害が積み重なるのではないだろうか。

そうした現状は、検挙率の低さにも表れている。同調査では盗難事案のうち解決済みはわずか11%で、未解決が40%、不明が49%を占めた。警察への届け出が少なければ捜査の端緒もつかめず、犯人は見つからない。捕まらなければ、同じ農家・同じ地域が再び狙われる。泣き寝入りが次の被害を呼ぶ悪循環だ。

山形県の「31件、約498万円相当」の被害も、過去10年間に届け出があった数字にすぎない。少額でも警察に届け出ることが、地域全体の被害を抑える第一歩になる

いますぐ実践できる
被害防犯対策


イチゴハウスの侵入防止対策(出典 農水省)

農水省は調査結果をもとに、ほ場で実践できる具体策を示している。まず生産者自身の備えとして、収穫物や脚立・コンテナを畑に放置しないこと。脚立は侵入する際の踏み台として悪用されるおそれがある。倉庫・ハウスは窓や出入り口の施錠を徹底し、園地には「盗難注意」「立入禁止」の看板やのぼり旗防犯カメラ、センサーライトなどを設置する。「防犯カメラ作動中」といった警告表示そのものが、侵入をためらわせる抑止力になる

カメラと警告表示を導入したイチゴハウスでは、それ以降の被害がゼロになった事例も報告されている。地域ぐるみの対策も効果を上げている。ある地域で生産者と警察が連携して園地の巡回を行い、あわせて盗難防止を呼びかけるチラシを配布したところ、被害にあう生産者が減ったという。農水省の調査でも、何らかの対策を講じた地域の約半数が「効果がある」と回答しており、対策の有効性は数字でも裏付けられている。

山形県内でも、収穫期に合わせた周知の工夫が進んでいる。JAグループ山形は6月、9月、10月にラジオCMを通じて盗難防止を呼びかけている。生産者がラジオを聞く朝方に集中してラジオCMを放送している。あわせて、のぼり旗437枚を作成し、生産者に共同購入してもらって注意喚起を図っている。

一粒一粒に手をかけてきた農作物を守るのは、こうした地道な監視の目の積み重ねが重要なポイントだ。

DATA

農林水産省 農作物の盗難の実態と対応策


取材・文:佐藤美紀

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