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遺伝子を改変してより優れた作物を! ゲノム編集は農業界の革命児となるか

近年「ゲノム編集」という言葉を耳にすることがある。人の手を加え、生物の遺伝子を変化させることだ。しかし、ゲノム編集と遺伝子組み替えはどう違うのだろうか? また、どんな利点や課題があるのだろうか?

近年研究の進む
注目技術ゲノム編集

「ゲノム編集」は一言でいえば、生物の遺伝子を人為的に改変することだ。少し前に「ゲノム編集食品が認可された」というニュースがあったことを覚えているだろうか。これはつまり、「ゲノム編集をした作物を食品として使う“お墨付き”が与えられた」ということだ。

一方で、ゲノム編集と同じように生物の性質を改変する技術に「遺伝子組み換え」があるが、この技術は依然として安全性が議論の的となっており、ゲノム編集とは扱いに差がある。

では、なぜゲノム編集は許されたのだろうか?
 

遺伝子の変異が
新しい特徴を生み出す

「ゲノム」とは、生物が持つ全ての遺伝情報のことだ。生物は個体ごとにそれぞれ固有のゲノムを持っていて、その情報によって個体の特性が決定される。

例えば、背の高い人と低い人はそれぞれ持つゲノムが違う。植物の場合も同様で、赤い果実と黄色い果実、青い花とピンクの花などの特性の違いは、ゲノムの情報の違いによって生じる。ゲノムはDNAが長く連なってできており、その中に「遺伝子」がある。ゲノム配列の一部に載っている個体の特性を決定づける遺伝子が壊れることで、ゲノム情報が変わってくる。

例を挙げよう。トマトには赤や黄色など様々な色があるが、その色の違いは、赤い色素を作る遺伝子が変異することで生じる。遺伝子の配列に変異が起き、正常に働くことができないため、赤色の色素を作ることができず、本来は赤い果実がオレンジ色になるのだ。

この遺伝子の異常は、トマトが進化する過程で自然に起きたものだが、面白いことに赤いトマトの遺伝子を人為的に壊しても同じ変化が期待できる。では、赤いトマトの品種の中で果実がオレンジ色に変わったものだけを手に入れるにはどうしたらいいのだろう? 



ゲノム変化は
「偶然の産物」

自然の中で変異を起こした品種は多く知られている。しかし、農家が普通に栽培をして目的とする変異を持った個体を見つけるのは非常に難しい。そのため、放射線や化学薬品を使って人為的に変異を与える処理(変異原処理)を行うことで、変異が入った個体を選ぶ効率を高めることもある。

自然条件や人為的な変異原処理によって変異を起こした品種を得られるが、いずれの場合も元の品種が持つゲノムに変異が起こることで特性に変化が生まれる。しかし、これらの方法は言わば「偶然の産物」だ。

草丈の低いイネが欲しいと思って変異原処理をしたとしても、同時に葉が黄や白色になったり収量が少なくなったりしてしまう可能性もあり、非常に煩わしいことになる。
 

欲しい特性のみを変化させる
「遺伝子ターゲッティング」とは

目的とする特性のみが変化する=目的とする遺伝子のみが変異する「遺伝子ターゲッティング」は古くから注目されてきたが、この手法を植物で実現するのは困難だった。前述したトマトの赤い色を作る遺伝子を壊すことができれば簡単に色を変えることができるが、それがなかなかできない……というのがこれまでの常識だった。

一方、遺伝子を改変する「遺伝子組み換え技術」は、二十世紀末ごろに技術がほぼ確立し、除草剤耐性の導入などで用いられてきた。

しかし、この技術はその植物が本来持たない遺伝子を取り入れるものだ。

これは、極端に考えれば新しい生物が誕生しているようなものであるため、現存の植物と交雑が起こらないようにすること、自然条件に拡散しないようにすることへの配慮が必要であり、実際に栽培に移る過程でリスク評価が求められる。

遺伝子を改変することは有用だが、このような困難を伴う状況の中で、ゲノム編集技術が開発された。



ゲノム編集と
遺伝子組み換えの違いとは何か

変異原処理ではどのような遺伝子が壊れているのか分からないまま偶然に任せて選抜が行われるのに対し、遺伝子組換えでは標的の遺伝子を外から導入することで植物の機能を変える。

はっきりとした標的のみが変わることは現代の育種においては非常に重要なことである。例えば、非常に収量性の良い品種だが耐病性が弱い作物や、花が大きくて美しいけれど花色が白しかない花など、欠点となっている特性一つを変えることで、価値が増大すると考えられるケースは多い。

ゲノム編集技術では、ゲノムを切断する酵素を使用し、標的となる遺伝子を破壊する。明確な標的を改変するという点で遺伝子組み換えと似ている。だが、このトマトは甘くて美味しいけれど赤の品種しかない、という場合に色だけを変えてしまうことがゲノム編集では可能となるのだ。

ゲノム編集と遺伝子組換えは一見似ているようだが、ゲノム編集の場合はその生物が元々持つ遺伝子を破壊する

ゲノム編集が従来の育種と異なるのは、新しい特性を持った品種を育成するために必要な期間である。様々な植物で品種改良が進んだ現在では、全く新しい品種を育成するよりも現在栽培されている品種の問題点を解決することが品種改良の目的となっている。

またゲノム編集は元品種にごく少数の特性変化を起こすものであり、交雑育種に比べて選抜の手間は非常に小さくなる
 

ゲノム編集技術が
抱える課題

ゲノム編集は多くの植物で成功しており、目的とする特性を持った品種を作り出すことができる。一方で、現在の技術では育成の途中過程で遺伝子組み換えも使っている。この点は植物での課題であり、遺伝子組換えなのかそうでないのか、という議論が残っている。

ゲノム編集は、これまでは自然条件や突然変異によって起きていた変異を人工的に起こすことができるが、改変できる範囲はその植物が元々持っている遺伝子の範囲に限られる。遺伝子組換えの場合、その植物には存在しない機能を付け加えることもできるが、ゲノム編集ではできない。

また、ゲノム編集では予測可能な範囲内での育種のみが可能であり、想像もできないような品種を作り出すことはできない。交雑育種の場合は、望ましくない特性を併せ持つ可能性が高いが、一方で予想しない優れた特性を育種の過程で生み出す可能性がある。既存の優れた品種の改良にはゲノム編集を用い、一方で新しい特性を持った品種の育成には交雑育種を行うようになるかもしれない。

そして、ゲノム編集を行う場合は、標的とする遺伝子が何であるかが事前に分かっていないといけない、ということを忘れてはならない。収量を高めたい、甘くしたいという目的に対して、どの遺伝子を改変すれば決定的であるかということが分かっている必要があり、そのためには品種間差のメカニズムを遺伝子レベルで明らかにしなければならない。

これまではモデル植物について研究が進められてきたが、そこで得た知見を農家が栽培する作物に応用し、効果を検証するような研究を、民間レベルも含めて積極的に取り組む必要があるだろう。


文:中野道治

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