イチゴの選果を効率化・省人化する「スマート選果」の最新動向
2024/12/19
2024年11月に開催された「アグリビジネス創出フェア2024」。今回は当日行われた講演のなかから、イチゴの選果・調整を効率化・省人化できる「イチゴ自動選別パック詰めロボット」と「スマート選果システム」を紹介する。
メイン写真提供:秋田県立大学生物資源科学部山本聡史准教授
イチゴの出荷作業の効率化は
喫緊の課題
日本では農業従事者の減少と高齢化が、同時に進行していることはご存知の通り。その影響はイチゴ生産にも出ており、海外を含めて日本産イチゴには旺盛な需要があり、単収は増加傾向であるにもかかわらず、イチゴの栽培面積と生産量は減少傾向にある。
イチゴ生産には人手が掛かる。それは常識だ。収穫を終えたら即、次作に向けた育苗が始まる。次に、定植、温度・湿度管理、防除、草勢管理が継続的に必要となる。
収穫は当然のことながら手作業だし、その後の選果・調整は人海戦術に頼らざるをえない。イチゴ生産にかかわる労働のうちの3割を、選果・調整=出荷作業が占めている。
生産現場では、選果・調整作業を効率化すべく、産地で出荷作業を行うパッキングセンターを設立する動きが盛んだ。これによりイチゴ生産者は生産に集中できるから、生産の効率化は実現する。
ところがパッキングセンターでは、変わらず人手が頼りとなる。今後も確実に人手不足が続くであろうから、より少ない人手で多くのイチゴを出荷できる仕組みが望まれている。
イチゴの選別・パック詰めを
ロボットがする時代へ!
最初にご紹介するのは「イチゴ自動選別パック詰めロボット」。イチゴパックロボコンソーシアムの発表者として登壇した、秋田県立大学生物資源科学部の山本聡史准教授が説明した。
山本先生は講演の冒頭、イチゴ生産のボトルネックとなっていること、共同選果施設(パッキングセンター)でも、人手不足が原因となり、全量を受け入れることができない場合もあることを説明したうえで、「共同選果施設で選別パック詰め作業の省力化が強く望まれています」と話した。
そもそもイチゴの選果は以下のような特徴があるため、初心者に難しいだけでなく、機械化・自動化が進んでおらず、熟練者が担っている。
・重さ、形、色をみて選別する必要がある。
・表面が軟らかいから、強く触れると「オセ」という跡が残り商品価値を下げる。
コンソーシアムが開発している「イチゴ自動選別パック詰めロボット」は、イチゴを選んだあとピッキングしてパック詰めするところまでできる。
コンソーシアムの代表機関は農研機構西日本農業研究センター。
ロボットの取扱性向上ソフトを担当する秋田県立大学生物資源学部、収穫箱の自動供給装置の開発とロボットの社会実装をになう三井金属計測機工株式会社、イチゴを傷つけない包装資材の開発に携わる興人フィルム&ケミカルズ株式会社、それと実証の場となりつつ作業性評価を行う株式会社まるむね、JA阿蘇いちご部会などで構成されている。
「イチゴ自動選別パック詰めロボット」は、収穫箱を撮影してAIでそれぞれのイチゴの位置と向きとを認識する。続いて、規格にあったイチゴのみを選んでピッキングして、出荷容器に並べる。「オセ」を出さないようにするため、指でつかむのではなく、吸引するロボットハンドを開発した。吸引する力は強すぎないように調整しつつ、吸引管には衝撃を吸収する緩衝材を搭載した。
現在の仕様では「自動選別パック詰めロボット」は1時間に12kgのイチゴを処理できるが、これは熟練作業者1人分に相当する。また、「オセ」などの損傷発生は人と同等レベルに収まっている。
「自動選別パック詰めロボット」は、収穫箱の自動供給、箱に並べたあとのイチゴにフィルムを掛ける、といった作業まで省人化できる。さらに、輸送時の損傷を減らす包装資材の高度化にも努めている。それらすべてを統合してロボットを人と協働させるのが、イチゴのスマート出荷体系だ。イチゴが共同選果施設に届いてから小売店に届くまでをトータルで、省人化・効率化しようとしているのだ。
開発中の「イチゴ自動選別パック詰めロボット」は、2025年度中に三井金属計測機工から市販される予定であり、本体価格は1,500万円を予定している。
いよいよイチゴの選別・パック詰めをロボットとともに行う時代が来るのだ。
JA西三河いちご部会が
ヤンマーグリーンシステム「スマート選果システム」を実証!
続いては、愛知県農業総合試験場の樋口達治さんのJA西三河の取り組みについての講演から、「イチゴ スマート選果システム」に焦点をあててご紹介しよう。
JA西三河では2014年頃から、スマート農業を積極的に取り入れてきた。農水省令和元年度スマート農業実証プロジェクトに採択され、「ICTに基づく養液栽培から販売による施設キュウリのデータ駆動経営一貫体系の実証」を実施した。
令和3年度には「JA西三河における生産から流通・販売のデータ駆動一貫体系の実証」が採択され、キュウリ・イチゴで実施した。事業を活用しながら、出荷量予測を用いた安定販売を目指している。
2023年からは、JA西三河のイチゴについて、農水省令和5年度戦略的スマート農業技術の開発・実装に採択され、「JA西三河いちご部会における生産から販売のデータ駆動一貫体系の実証」を行っている。
今回の実証では、以下の4つの技術が導入された。
①高効率ヒートポンプの導入
②局所環境制御技術の導入
③スマート選果システムの導入
④画像処理による出荷量予測
これらの導入により、生産から出荷までを効率化することで、経営収支を5%改善することを目標と定めた。
注目したのは③の「スマート選果システム」。ヤンマーグリーンシステムから市販されている製品だ。
これを同地の選果基準に適合させて、実際にイチゴ生産者が利用することで、どれくらいパック詰め作業の労働時間を削減できるのか、実証した。
復習しておくと、「スマート選果システム」は、専用の集荷トレーにのせたイチゴを機械が撮影して、イチゴの重さと形を認識。そのデータを活用して、どのイチゴをピッキングするかを機械が指示してくれる、という製品だ。
実際のピッキング作業は人が行うことになるが、ピッキングすべきイチゴを機械が教えてくれるから初心者でも作業できること、またパック詰め前に等階級ごとの出荷量を予測できるから有利販売につなげやすい、というメリットもある。
「実証の結果、12月のレギュラーパック詰めの作業時間を25%、同期間の玉当たり作業時間は36%の削減に成功。また、2~4月では16%、作業時間を削減できました。
労働時間を大幅に削減するような効果はありませんが、システムの指示通りにパック詰めすれば良いから、熟練者でなくても作業できるのはメリットです。
今後は、外部雇用者のパック詰め時間を検証します。また、新たなパック詰め(少量パック等)を検討するなど、システムの効果を最大限に発揮できる方法を探ります」と、樋口さんは話した。
人手不足が深刻化し熟練者の継続雇用が難しくなる今後を見据えれば、「スマート選果システム」を上手に活用できれば効果が見込める、ということだろう。今後の実証をウォッチしていきたい。
文:川島礼二郎