これからの農業は、 「エネルギー兼業農家」が創る
2016/06/13
最大のハードルは
協同組合の仕組みと農家の意識
今は、太陽光、風力、地熱、小水力、バイオマスなどのご当地発電はありますが、これらは地方の中小都市が中心です。小規模なエネルギー自給をリアリティのある事業にするならば、どう考えても再エネの宝庫である農山村がやりやすいはずです。逆に言えば、農家が再エネづくりに直接参加しない限り、分散型のエネルギーシステムは定着できないと思います。
農家が再エネで即儲けようと思うなら、やはり太陽光発電です。現在流行している営農型太陽光発電なども、そこそこには儲かると思いますし、すでにお茶畑や果樹園などではかなり取り入れられています。
ただ、個別の農家が投資するには、再エネはハードルが高い側面もあります。自宅の屋根の上に太陽光パネルを置くだけなら、少しのお金を出せばいいのでハードルは低いですが、農家が再エネで売電事業をやろうとしても、まずノウハウがありません。
例えば、農民が専門家を交えて市民ファンドを作り、地元の金融機関に事業計画をきちんと説明して融資を受けられれば、売電収入による事業の見通しも立つでしょう。ただ、それができる人材がなかなかいません。なおかつ、再エネに融資する側にも審査能力がないというのが現実です。
農協も遅ればせながら脱原発を掲げ、10億円の再エネファンドを全国でつくりました。将来的に30億円まで増やすつもりのようですが、まだ農協にはそれほどノウハウがありません。それに、倉庫の上に太陽光パネルを置くといった程度で、本気で「エネルギー兼業農家」を目指そうという構えではありません。農家の中から、市民ファンドのような融資を引き出す力を持った組織を作れる人が出てこないとダメですが、地域で主導できそうなのが、今は農協くらいしかないのです。農家の中で、再エネに挑戦しようという人はまばらです。
ドイツのように、協同組合法が領域全般にわたり「エネルギー協同組合」が作りやすい環境ならいいのですが、日本は協同組合が領域ごとにバラバラの法律で構成されているため、「エネルギー協同組合」も作りにくい。そもそも肝心の農家も、その地域で「エネルギー兼業農家」を主導的に目指そうという意識が弱い……それらの壁を乗り超えなければならないというのが、目下の最大の課題なのです。
金子 勝
1952年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。法政大学経済学部教授などを経て、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政学、制度の経済学。