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【進化する農業現場】農業×企業が生む”地域活性の仕組み”とは?

最近、農業現場でよく耳にする「民間企業との提携」。農家やJAが企業とのつながりを持つことのメリットは何だろうか? 中央大学教授の杉浦宣彦氏による連載ルポ第1回、JAなめがたしおさい・前編。

「皆さんの畑」を目指して
JAなめがたしおさいの取り組み

こんにちは、中央大学の杉浦です。これまで私は誌面版のアグリジャーナルで、JAグループをめぐる様々な動きについて書いてきました。今回からはWEB版でも「進化する農業の現場」について、これまで筆者がみてきた様々な先端事例を紹介しながら、新たな農業の方向性を検討していく機会をいただきました。よろしくお願いします。

JAグループの自己改革に関する有識者会議の座長を務めさせていただいてから、多くの農業の現場を見る機会をいただいてきたものの、まだまだ知らない部分も多いかと思います。このルポでは、新たな取り組みをどんどん紹介・比較検討していきたいと考えております。様々な取り組みについての自薦他薦も、ぜひ編集部経由でご紹介いただければ幸いです。

 

さて、初回ですが、最近筆者がたびたび訪問させていただいている「JAなめがたしおさい」の取り組みについて、2回程度に分けて紹介・分析してみたいと思います。


(画像:JAグループ茨城HPより引用)

このJAのある地域は、茨城県の東南部、霞ケ浦・北浦・鹿島灘に挟まれた半島状の地形となっています。台地部分には肥沃な畑作地帯が、そして「水郷」と呼ばれる両湖岸には水田地帯が広がる、冬でも比較的温暖な地域です。

東京にも近く、潮来インターまでだと東京駅からバスで1時間15分程度。しかも、バスの本数は1時間に3~4本程度と、ベッドタウン並みの便利さです。その近さを活かして、首都圏向けのニンジンやゴボウ、ネギ、キャベツ、その他の葉物野菜やコメの生産地として知られていますが、実は全国有数のサツマイモ産地でもあります。


JAと農家、そして企業の
強い結びつき

筆者も地名こそ知ってはいたものの、知識不十分なまま昨年秋に訪れました。

そこで農家やJAの方とお話ししていてまず驚いたのは、「どんなものがほしいか」というニーズを知り、積極的にそのニーズに応えようとする姿勢です。

組合長自ら「皆さんの畑だと思って、なんでも言ってきてください」と発していたのには驚きましたし、農家の方たちも新しい品種や栽培方法にもチャレンジする方が多く、後継者も相当数育っている地域です。

東京に近いこともあってか、業者との栽培契約にも熱心な農家が多いのも印象的でした。JAを経由せずに業者に出している農家もいますが、JAが仲介して選果することで、市場から評価される高品質な作物が出荷できているのです。

これまでは単に「茨城産」だったのが、市場でも「行方産」と区別する声が聞かれるようになってきました。これこそ、差別化と販路拡大の成功事例ではないでしょうか。

また、この地域で最も特徴的なのは「民間企業との提携」でしょう。これは、なめがたファーマーズヴィレッジを訪ねてみるとわかります。ここは廃校舎をリニューアルして作られた施設で、会員制の農地を持つといった、様々な”体験”を提供できる場となっています。


おいも収穫体験。

やきいもファクトリーミュージアムでの「工場ライブ案内」。

手づくりスイートポテト教室。

ヴィレッジ内にはグランピングエリアも。

名産品であるサツマイモを一つの軸として、自分でスイートポテトや干しいもを作れたり、地元産の農作物を活かした料理を食べられるなど、まるでテーマパークのような作り。JAだけでここまで考えつくのだろうか……と思っていたら、実はスイートポテトなどの「らぽっぽ」ブランドで有名な、白ハト食品工業と連携して運営がなされているのです。

まさに、「JAや地域」と「企業」が連携した理想の形でしょう。実際この施設では、スイートポテトなどの加工場も備わっており、新たな雇用創出の場としての役割も担っているのです。

民間企業との提携により
地域に生まれる新たな価値

最近、農業については「体験型」をうたう施設も出てきていますが、素人がいきなり農地を借りて家庭菜園的な農業をしても、実がならなかったり枯れてしまうなど、上手くいかないケースが多くあります。

観光農園の一部では果実狩りも行われていますが、毎年そのために地方に出かけるかというとそうではないはずです。来年も訪れたいと思ってもらえるほど高い満足感を得てもらうには、案外難しいエンターテイメントなのです。

一方、なめがたファーマーズヴィレッジの場合はどうでしょうか。なめがたファーマーズヴィレッジでは「会員制」という形式で「ROYAL FARM OWNERS CLUB」を運営しており、畑のオーナーとなって種まきから収穫までを行えるコースと、プロのファームマスターの農園で収穫を手軽に楽しめる収穫体験コースが用意されています。どちらも専門家によるアドバイスが受けられ、ある程度確実に収穫できるのは、利用者にとって嬉しいことです。
コースによって、会員限定のプレミアム特典(BBQ施設使用権や和栗やブルーベリーのオーナー権、ヴィレッジ内アトラクションのフリーパス等)が用意され、何度も通いたくなるような工夫もされています。

さらに、自分が作った作物を加工・製品化し、それを実際に食べるという一連の体験を、全て施設内でできるのも大きなポイントでしょう。天候も関係なく楽しめるため、観光スポットとして訪れても失敗がないということも特長です。

(画像:JAなめがたしおさい提供)

当施設内のレストランでも、例えばレストランでは地元の食材を使った料理やサラダバイキングといったメニューが多く並んでいます。

このように、JAと農家、企業が連携することで”地域全体でプロモーションを行う仕組み”が成立しているのです。

こうしたJAとの連携には企業も関心があるようで、著者が訪問した時にも商談や視察を兼ねてきている企業の方を見かけました。

アライアンス戦略を行使して新たな「経営する農業」を実践している事例と考えられるでしょう。

~続く~

PROFILE

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授

杉浦宣彦


現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。

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