生産者の取組み

この20年で農業は”こう”変わった。農業経営がしやすい時代はやってきたのか?

農業は20年間にさまざまな変化が起きた。いろんなカタチの農業が確立され、選択肢が増え、選択するための情報量も増えた。だが、経営として成り立つ農業が実現しやすくなったかというと、否である。選択肢が増えた分、選び取る力が必要になっている。農業ジャーナリストの青山浩子氏によるコラム(後編)。

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「売り方」重視から「ものづくり」重視に

2つ目の変化は、農業経営における生産と販売の重点の置き方が変わったということだ。15年前は、生産以上に売り方が注目されていた。農産物全体が生産過剰基調にあり、いかに売るかが課題だったからだ。それがいまは、農家数の減少や、労働力不足を背景に、農産物によっては過剰基調から不足基調へと移りつつある。農家を取材していても「販売には困らない。人手が足らず、生産量を増やせないことが悩みの種」という話しは枚挙に暇がない。

こうした現状を反映し、生産現場ではあらためてものづくりに重点を置かれている。先日、高知県で新規就農8年目のきゅうり農家に出会った。施設内で環境制御をおこなうのはもちろん、さまざまな数字を拾って、データ化している。

たとえば、JAの選果場全体の出荷量の推移、相場の値動き、天候などなどと組み合わせ、「いつ、どんな作業をすれば収量(所得)が最大化できるか」という目的をたてて、PDCA(PLAN→DO→CHECK→ACTION)のサイクルを回している。また、非農家からの参入者には珍しく、きゅうりはすべてJAに出荷している。その理由を聞くと「生産に集中できるから。JA出荷であっても、十分に収益が出せるような経営であれば、自分で売る必要がない」と断言していた。この話を聞いて、農業に吹く新しい風を感じた。

神奈川県の三浦半島で多品種の野菜を生産する女性農業者を取材した時も風を感じた。この生産者は、作った野菜はレストランなどに直接販売しているが、本人は生産に専念し、営業活動などはしていない。販売は、ビジネスパートナーである青果卸業者に一任しているのだ。

青果卸業者といっても、不特定多数の青果物を扱うのではなく、女性農業者の野菜に惚れ込み、特徴や作り方のこだわりをレストランにつぶさに伝えた上で販売している。ビジネスパートナーと組むことによって、生産に専念する環境を整えているのだ。20年前には見られなかったことだ。


情報量、支援策、メディアの変化
様々な人が 「農業」にアクセスしやすい環境へ

3つ目の変化は、農業がより開かれた産業になってきたということだ。仕事を始めた頃、農業はまだ関係者以外の一般の人にとってはわかりにくく、「ヴェールに包まれた」産業だった。情報も少なく、新規就農者や参入企業から、「最初、どこにいけば情報を入手できるのかわからなかった」という声を多く聞いた。だがいまでは、情報量が増えたし、政府の新規就農者への支援策も手厚いものになった。

メディアも変わった。20年前、農業関連のメディアの出版社といえばJA関連、普及指導関連、政府系金融公庫関連といったところに加え、わずかな独立系出版社がある程度だった。しかし、いまは独立系の出版社が増え、発信方法も活字の世界から、ウェブを加えた発信に変わった。農業関連書籍の種類もバツグンに増えた。それだけ多くの人が農業に関する情報にアクセスできるようになった。

外から見れば、農業は旧態依然としているように見えるかもしれない。それでも20年間にさまざまな変化が起きた。いろんなカタチの農業が確立され、選択肢が増え、選択するための情報量も増えた。だが、経営として成り立つ農業が実現しやすくなったかというと、答えは否である。選択肢が増えた分、選び取る力が必要になってきた。それでも、若い層がいままでにない農業のカタチを持ち込んで、活躍する様子をみるにつけ、産業としての可能性の広がりを感じている。

昔に比べて農業界の風通しがよくなったと実感する人は多いだろう。今や、数多くの成功事例を、耳にするのではないだろうか。いままでにない農業が新しい成功を運び込み、経営へ漕ぎ着ける農家も増えた。選択肢が増えた分、情報収集も重要な農作業の1つと言えるのではと感じる。


PROFILE

農業ジャーナリスト

青山浩子


愛知県生まれ。1986年京都外国語大学卒業。1999年より農業関係のジャーナリストとして活動中。2019年筑波大学生命環境科学研究科修了(農学博士)。農業関連の月刊誌、新聞などに連載。著書に「強い農業をつくる」「『農』が変える食ビジネス」(いずれも日本経済新聞出版社)「2025年日本の農業ビジネス」(講談社現代新書)など。現在、日本農業法人協会理事、農政ジャーナリストの会幹事などをつとめる。2018年より新潟食料農業大学非常勤講師。

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