生産者の取組み

京丸園が実践する“ユニバーサル農業”とは? 持続可能な農福連携のカギ

「農福連携」もずいぶん浸透してきたが、それよりはるか昔から実践していた農業法人が京丸園(株)だ。農業を元気に、そして強くすることに主眼を置き、「ユニバーサル農業」と名付けている。そんな京丸園流農福連携とは。

農業に主眼を置いた農福連携

農福連携という言葉がずいぶん浸透するようになった。人手不足を抱える農業、就労を希望する人が多い福祉。双方が連携すれば課題解決につながる、そんな期待から生まれた言葉だ。

この言葉が生まれるはるか昔の24年前から、農福連携を実践している農業法人のひとつが京丸園(株)(静岡県浜松市)。主力品目は水耕栽培によるミニサイズの野菜。「京丸姫ねぎ」、「京丸姫みつば」、「京丸ミニちんげん」などというブランドで、地元JAを通じ、全国の40カ所の卸売市場に出荷している。これらの商品を生産し、出荷しているのは障害を持つ人、女性、高齢者を含む総勢100名からなる従業員の皆さんだ。

京丸園は、単に農業と福祉が抱える課題を解決しようと農福連携に取り組んでいるわけではない。同社は「農業」を元気に、そして強くすることに主眼を置いている。ただし、同社が「福祉」をないがしろにしているわけでは決してない。

障害をもつ人たちに戦力になってもらい、売上高や生産性が上がってこそ、安定的な雇用が可能になる。そんな農業を同社は実践してきた。障害のある従業員を1996年に雇用して以来、売上高は順調に伸び、生産性も向上している。福祉の人々の力を借り、農業を強くする。これが京丸園流の農福連携だ。


農業全体の課題を解決

京丸園流農福連携には、いくつかの特徴がある。

一つは、仕事の分解だ。鈴木厚志社長は「農業にはいろんな仕事がある。その点で障害を持つ人との親和性が高い」と話す。ただ、従来の農業のやり方そのままでは、親和性を活かすことはできない。そう考えた鈴木社長は、業務や作業を細かく分解し、「この部分ならこういった障害を持つ人に適しているかもしれない」「この仕事はむしろ障害を持つ人に向いている」と仕事と従業員をマッチさせていった。マッチングをする専門の従業員もおり、福祉分野でのキャリアを持つ人が担当している。

2つめに、仕事や作業の具体化だ。「このトレイをきれいに洗ってください」「たっぷり水やりをしてください」。生産現場では当たり前に使われる言葉だ。だが、「きれい」「たっぷり」という表現は実に曖昧で、受け取る人によって、作業の仕方には幅ができる。

このため、同社では「トレイを表と裏でそれぞれ3回ずつ洗ってください」「水を3秒数えながらあげてください」と具体化した。さらにこの方法を健常者にも適用したところが京丸園のすごい点。

これにより、従業員間の作業のバラツキが減り、野菜の生育が揃って商品率がアップするなど生産性向上につながったという。農福連携を農業と福祉の連携に終わらせず、農業の課題解決に結びつけていく。この発想こそ農福連携を持続させていくカギだと思う。

3つめに企業との連携。京丸園では、障害を持つ従業員が30名近くいる。だが、働き先を探している人はもっといる。そこで、特例子会社と連携し、特例子会社が雇用する障害を持つ従業員に、京丸園の作業の一部を請け負ってもらっている。

この請負作業は、京丸園のみならず浜松市に拠点を置く複数の農業法人も委託している。季節性のある農産物を作る法人もあり、季節により作業量に変動がある。作業量に応じて、特例子会社に作業の委託ができる点で、農業法人にメリットがある。

一方、特例子会社としても複数の農業法人とネットワークを組むことで、障害を持つ従業員の働く先を安定的に確保できる。


ユニバーサル農業を極める

京丸園は、2019年度農林水産祭において、天皇杯(多角化経営部門)で受賞した。2020年1月、関係者を集めた祝賀会の席で、臨席した行政やJA、市場関係者らを前に、鈴木社長は謝辞を述べた。

さらに、こう続けた。「この賞は、京丸園という会社に与えられたものです」。そして、従業員が座る席を向いた瞬間、感極まり、少し時間をおいてこう話した。「……一緒に頑張ってくれた従業員とともに頂いた賞です」。会場内は感動につつまれた。

鈴木社長は、農福連携をという言葉は使わず、「普遍的」、「一般的」という意味を持つ「ユニバーサル」という言葉を冠に、「ユニバーサル農業」と表現する。障害を持つ人と持たない人が、互いに協力しあい、助け合い、敬いあうという普遍的な人間の営みに農業を位置づけることで、農業が発展していくという意味だと私は理解している。

農福連携という言葉はわかりやすく、またそのメリットも計り知れない。ただ、始めることより、持続させることこそ意味がある。京丸園が確立したユニバーサル農業には、どうすれば継続的な連携にしていくかというノウハウが凝縮されている。農に主眼を置いた農福連携に取り組みたいという農業者、産地にとって多いにヒントになるだろう。

※特例子会社:企業は事業規模などにより、障害者の雇用機会を確保するための「法定雇用率」が定められている。障害者の雇用促進を図るため、企業が障害者の雇用を踏まえた子会社を設立し、一定の要件を満たす場合、子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなし、実雇用率として算定できる。

PROFILE

農業ジャーナリスト

青山浩子


愛知県生まれ。1986年京都外国語大学卒業。1999年より農業関係のジャーナリストとして活動中。2019年筑波大学生命環境科学研究科修了(農学博士)。農業関連の月刊誌、新聞などに連載。著書に「強い農業をつくる」「『農』が変える食ビジネス」(いずれも日本経済新聞出版社)「2025年日本の農業ビジネス」(講談社現代新書)など。現在、日本農業法人協会理事、農政ジャーナリストの会幹事などをつとめる。2018年より新潟食料農業大学非常勤講師。

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