注目キーワード

生産者の取組み

こんな立地でなぜ人が集まる? 「ぽつんと」ジェラートショップ

田んぼに囲まれた場所や、山の中の商業施設のない場所に「ぽつんと」ある、酪農家が営むジェラートショップ。行きづらい場所にあるのにも関わらず、いつもお客さんでお店が賑わっているのはなぜか?そして、そんな立地にお店を出す理由とは。

アイキャッチ:MUCCA(ムッカ)

年間25万人を集客する人気店も

酪農家が営むジェラートショップをたびたび取材する。

農水省によると、6次産業化に取り組む酪農家は236軒(2014年時点)あり、その代表的な乳製品がジェラートを含む「アイス・ソフトクリーム」だ。236軒の酪農家が使用する牛乳の42%が、アイス・ソフトクリームに向けられているという。

筆者はこれまで、取材を含め10軒ほど訪ねたが、印象に残るのはショップの立地だ。人の往来が少なく、周りに商業施設もない場所に「ぽつん」と建っていることが思いのほか多い。田んぼに囲まれたショップもあれば、山の中にあるショップもある。

ショップが、牧場の近くにあるからということではない。むしろ、防疫上の問題から、牧場の近くで、不特定多数の人が来るジェラートショップを作ることは避けなければならない。

それにも関わらず、その集客力に驚かされる。多いところは年間25万人が来ているというが、さらに大勢を集客するジェラートショップも存在している。立地条件を考えると快挙としか言いようがない。

立地選定と重なる出店目的

「ぽつん」とした立地にショップを出すには、それなりの理由がある。そこには「なぜ自分たちがジェラートショップをやっているのか」という酪農家の原点と重なる。

酪農家たちに、ジェラートショップの出店理由を聞くと、「自分たちが搾っている牛乳を何らかの形で消費者に直接届けたい」という声とともに、「酪農という仕事、農業の大切さを消費者に知ってもらいたいから」という声をよく聞く。

新鮮な牛乳を原料にしたジェラートの味は申し分なくおいしい。ただ「おいしい」で終わるのではなく、味の背景にあるストーリー(酪農という仕事の意義、牧草を育む農地があってこそ牛のエサが作られるなど)に思いをはせてもらいたいという熱い思いを持っている。

だからといって、牧場主がお客さんにいちいち説教するわけではない。

まずは、のんびりとした場所で、しばし時間を忘れ、ゆっくりと味わってもらう。そんな空間が気に入って何度も訪れるうちに、酪農や農業について思いをはせてくれ、やがては酪農のよき理解者になってもらえるのでは?そんな期待から、駅前や市街地など商業上有利な場所ではなく、自ずと農村の立地を選ぶようだ。

もっとも、市街地に比べた時の地価の安さや、十分な駐車スペースなど現実的な観点から立地を選択する面もある。



明確な戦略と盤石な経営基盤

立地がどうあれ、事業として取り組む以上、当然ながら収益を上げていかなければならない。酪農家たちは、おいしいジェラートを提供するだけでなく、ジェラートを味わう空間づくりを含め、実にさまざまな工夫や努力をしている。

手づくりアイスクリーム牧舎松ぼっくり

岩手県雫石町にある「手づくりアイスクリーム牧舎松ぼっくり」は、ショップの裏手にあるカラ松を手入れし、素敵な散歩道として整備している。ウッドデッキやブランコもあり、ジェラートを食べながら森林浴もできるようにしている。
 

MUCCA(ムッカ)

香川県三木町にある「MUCCA(ムッカ)」は、空き家だった古民家を改装して、ジェラートショップにした。フレーバーに使う果物などの素材はいずれも、地元で生産されたり、牧場主が厳選したものだけを使っており、「ここでしか食べられないジェラート」を提供している。

先日訪ねた兵庫県赤穂市の「ジェラートショップTETE」。同市で牧場を営む丸尾牧場が、2019年にオープンしたばかりのジェラートショップだ。

子育て中のお母さんたちがゆっくりと時間を過ごせるよう、子供たちが安全に遊ぶことができるスペースを確保している。こだわりはそれぞれだが、わざわざ行きたくなるような工夫を凝らし、それが訪れる人に届いているからこそ、集客に成功しているのだろう。

また、本業である酪農経営が順調に推移していることも、ジェラートショップが事業として成立する前提条件となる。明確な戦略と盤石な経営基盤を持つ牧場が運営していることが、ぽつんとジェラートショップの存立要件だといえる。

PROFILE

農業ジャーナリスト

青山浩子


愛知県生まれ。1986年京都外国語大学卒業。1999年より農業関係のジャーナリストとして活動中。2019年筑波大学生命環境科学研究科修了(農学博士)。農業関連の月刊誌、新聞などに連載。著書に「強い農業をつくる」「『農』が変える食ビジネス」(いずれも日本経済新聞出版社)「2025年日本の農業ビジネス」(講談社現代新書)など。現在、日本農業法人協会理事、農政ジャーナリストの会幹事などをつとめる。2018年より新潟食料農業大学非常勤講師。

関連記事

農業機械&ソリューションLIST

アクセスランキング

  1. トマトの試験で収穫数、収益がアップ! 海藻由来のバイオスティミュラントの効果は?...
  2. 軽トラカスタムの新潮流!親しみやすさが人気の『レトロカスタム』
  3. ゲノム編集と遺伝子組み換えの違いは? メリットを専門家が解説
  4. AIソリューションが実現する高精度な収穫量予測 正確な予測で効率&利益アップ!...
  5. 【植物工場ビジネスの最新動向と課題】現状は赤字が約半数。エネルギー削減の取り組み進む...
  6. 東京オートサロン2024でみつけた、最新の軽トラカスタム一挙公開!
  7. JAが「農業協同組合」であり続けるために 経営危機を乗り越えるためにすべきことは?...
  8. 低コストで高耐久! 屋根の上で発電もできる「鉄骨ポリカハウス」
  9. 今買えるEV軽トラから特定小型まで! 農業で活躍するモビリティを一挙公開!...
  10. 消費者へのアピールに“万田酵素”を活用!? 野菜や果物、米の販売時に専用ラベルで差別化...

フリーマガジン

「AGRI JOURNAL」

vol.33|¥0
2024/10/09発行

お詫びと訂正