最新AIで施設園芸の作業効率化が実現!農研機構が目指すスマート農業とは
2020/09/09
農業と食品に関する日本最大の研究機関である農研機構では、次世代施設園芸に関して、どのような研究開発を行っているのか? 農業技術革新工学研究センター・高度作業支援システム研究領域の研究者に聞いた。
効率化の実現を目指した
研究開発を推進
次世代施設園芸拠点は、効率化の実現を目指して研究開発を行ってきた。その目的は「生産コストの削減」だ。高度施設型作業ユニット長の太田智彦さんが、そこでの研究内容を教えてくれた。
「次世代施設園芸拠点は非常に大規模ですが、行われている作業を分析すると、手作業の時間が非常に長く、種類も多かった。着目したのは、作業全体の4割を占める収穫作業。
日ごとの変動が大きいため、施設運営者は人を多めに雇用していました。そこで開発したのがAIを活用するための『作業管理システム』です。簡単に言うと、AIで作業量を予測し、平準化するために、作業人員を上手く配分する、という仕組みです。
いつ、どこで、どれだけの作業が必要か事前に分かれば、AIを利用して作業の配置を最適化することで、急な残業や人員不足、作業の遅延などを防ぐことができるシステムを目指しています」(太田さん)。
作業データからAIが効率的な作業割り当てを計画するシステムを研究中。従業員は急な残業や作業の空き時間が削減され、雇用者は過剰な人員を雇用する必要がなくな理、効率的な経営を実現する。
作業管理にAIを導入するには、作業をデータとして入力する必要がある。そのための入力用装置として、作業者が操作するスマホ型と、読み取るだけのバーコード型とを開発した。現在は、さらに効率的、低コストに作業データを収集できるシステムに改良するとともに、AIを利用しやすい環境を構築しているところだという。
作業者データを収集するデバイスとして、スマホ型と、簡易タイプにあたるバーコード型を開発中。前者は野帳記入と比較して5分/人・日効率化する。後者は記録機能のみの簡易型として試作された。より効率的・低コストにデータを収集できるよう改良中だ。
続いて、収穫に必要な作業量を予測する部分について同ユニットの内藤裕貴さんが説明してくれた。
「事前に収穫作業量を把握するために目を付けたのは着果数です。開発した着果モニタリングシステムは、施設内を夜間自律走行し、植物体画像を収集します。画像認識AIを活用して、収穫可能な果数を自動で計算し、作業量を予測します」
これが作業量予測に必要な情報を収集する。夜間あらかじめ設定した時刻に作業用レール上を一定速度で走行する。台車に搭載したモニタリング装置が、植物体の展開画像を撮影。画像分析により、画像に含まれる果実を計数する。ここでもAIが活用されている。
「得られた作業量の予測データと、人の作業データとを合わせて、AIエンジンが要員計画を最適化し、農場長に作業計画を提案します。これが未来の作業管理システムの一つのイメージです」。
AIを活用した
施設園芸農業の未来
AIを活用した省力化技術が社会実装され、より効果的な経営が行われる日は遠くない。では、農研機構では次は何を目指すのだろうか?
領域長の八谷満さんは、「ご紹介した施設園芸におけるAI活用技術は、土地利用型農業に比べてより“農業の工業化”を実現する一つのツールと考えます。また、省力化の研究方向として自動化があるが、今のところ農業用ロボットは、人と同程度の作業効率でしかありません。
言うまでもなく、農業用ロボット(例:収穫ロボット)が扱う対象物は、産業用のそれとは異なり、その大きさや量(収量)、形状、色も千差万別で、均質化が難しい。これを乗り越えて効率を上げることが課題です」と話す。あわせて、大規模ハウス以外にももちろん目を向けている。
「これまでは大規模施設向けの技術開発を先行してきましたが、近年、中山間地の農業が衰退してしまった。そこで行われている中小規模施設園芸にも向き合い、衰退を食い止める技術開発も必要だと痛感しています。
今後は、大規模施設向けの開発の社会実装を目指して続けながら、低価格化を意識した機械のモジュール化や中小規模のパイプハウスでの導入を視野に入れたコア技術の開発も重要と位置付けています」(八谷さん)。
教えてくれた人
農業技術革新工学研究センター・高度作業支援システム研究領域
太田智彦さん
八谷満さん
AGRI JOURNAL vol.16(2020年夏号)より転載