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複合環境制御と統合環境制御の違いとは? 環境制御システムのイロハを専門家が解説

環境制御システムが脚光を浴びているが、用語の定義や基本的な機能は、厳密に定義されていないことも多く、人によって理解が異なる。そこで今回は、施設園芸に長く関わっている日本施設園芸協会の常務理事兼参事の高市益行さんに解説していただいた。

環境制御で増収を目指そう!

環境制御システムの導入目的は、収量を増やしコストを減らすことである。植物の成長には、光・二酸化炭素・水と栄養が必要だ。温度、湿度、気流なども成長に影響を与える。環境制御の第一歩は、ハウス内の環境測定=ハウス内環境の見える化である。

測定データを見ながら、ハウス内をより植物の成長に適した条件にすることが環境制御の基本である。これを適切に行えば、植物が良好に成長するから収量は増える。

またカーテンや天窓、冷暖房機やCO2施用機などのハウス内設備の効率的な稼働も可能となる。資源と労力の無駄が少なくなるから、コスト低減と生産効率向上を実現できる。

そんな良いことずくめの環境制御システムだが、日本では高機能なものは最近まであまり利用されてこなかった。環境制御コンピューターは、容易に導入できないほどに高価だったり、機能的に未成熟な製品が販売されていた時代もあった。また、操作が難しく、利用者である農業生産者が簡単に使いこなせるものではなかった。

そのような状況が今、変わろうとしている。インターネットと携帯端末の普及を追い風に、現実的な価格ながらも「使えるサービス」が続々と登場しているのだ。そんな環境制御システムについて、日本施設園芸協会の常務理事兼参事を務める高市益行氏が解説してくれた。
 

 

日本における
環境制御システムの現状

高市益行氏(以下、高市):まず日本における環境制御システムの開発の経緯からお話しましょう。若い人には知られていませんが、実は日本においても環境制御システムの開発は長い歴史を有しているのですよ。1970年代には既に、機器ごとの操作盤が普及していました。これはサーモスタットやタイマーによって、例えば天窓なら天窓、暖房機なら暖房機が動く、といった仕組みでした。

それぞれの装置をバラバラに動かしていては管理するのに不便だということで、一つの操作盤で制御する『複合コントローラー』というタイプの製品がシェアを伸ばしました。このタイプの機器は比較的安価で、今でも広く使われています。

一方で、1980年代には国産の『環境制御コンピューター』と呼ばれる高度なシステムも市販されました。高価な割には効果を実感しにくく、各メーカーが独自に製造・販売し、メーカー間の互換性はなく、広く普及するには至りませんでした。

ただし、近年は環境制御への注目が高まって、インターネットなどの情報利用が進んでいることもあり、高機能な国産製品の開発が活発になって現在に至っています。
 


提供:日本施設園芸協会

 
また、農林水産省では長らく中小規模の生産者の支援を中心とした施策が取られていましたが、社会的背景の変容もあり、大型施設生産や企業的経営への支援策が増えて来ています。1980年代から90年代以降、法人組織による大型施設では、海外製(特にオランダ製)制御コンピューターが導入されてきました。

この海外製の制御コンピューターは『統合環境制御システム』と呼ばれるもので、海外勢は栽培方法まで含めた管理ノウハウを有していたことから、今でも大型~大規模施設においてはもっぱら海外製が使われています。

そして近年の日本では、クラウドを利用したハウス内環境の見える化システムの利用が増えています。機器を制御する機能は含まれない計測のみの製品が多いですが、表示機能のみでも生産者には非常に役立ちます」
 

 

複合環境制御装置と
統合環境制御装置の違いとは

──なるほど! 色々な製品が農業生産者のニーズに応じて開発されてきたのですね。ところで、今のお話でも『複合環境制御装置』と『統合環境制御装置』とが出て来ました。それから、単に『環境制御装置』と呼ぶ場合もあります。それぞれの定義とか、機能の違いを教えていただけませんか?

高市:答えにくいところを突いてきますね(笑) 実は業界でも明確に定義しているわけではありませんが、通念上という形でお話しましょう。

まず大前提として、業界では、カーテンや天窓、冷暖房機といった、それぞれの機器のことを『環境制御装置』と呼んでいます。それら環境制御装置が何らかの形で繋がって一つの系を成しているものを『システム』と称します。

次に、さきほどのお話を思い出して下さい。それぞれの環境制御装置をバラバラに制御していては大変だということで『複合コントローラー』が登場した、とお話しました。

これは複数の環境制御装置を一つの制御盤で操作する仕組みですが、コンピューターで制御するようになると、タイマーとかサーモスタットでオン・オフの切り替えを行う単体の機能に加えて、例えば窓が開いているときには換気扇を動かさないといった機器動作の相互関係についてプログラムできるようになりました。

これを一般的に『複合環境制御装置』または『複合環境制御システム』と呼びます。施設園芸で使用する沢山の装置を一か所で相互に無駄なく制御したい、というニーズに対応できます。

一方の『統合環境制御装置』、または『統合環境制御システム』については、より複雑で高度な演算や判断を行うもの、と理解すると良いでしょう。例えば、温度とか湿度、CO2濃度といった複数のパラメータを見ながら、植物にとって最適な条件になるように、あるいは効率的に燃料消費量を抑制するように、などの戦略的な制御方法を実現するために、カーテンや天窓、冷暖房機など複数の制御装置を動作させるシステムです。

ただし、ここでお話したことは明確に定義されているわけではありませんので、お話される方によって使われ方が異なる場合があります。実際に製品を選ぶ際には、良く機能を確かめてから決めると良いでしょう。
 

 

「UECS」とは?

──良く分かりました! ところで、環境制御システムを調べていると『UECS』という語を目にすることがあるのですが、『UECS』とは何のことなのでしょうか?

高市:『UECS』とは、ユビキタス環境制御システム(Ubiquitous Environment Control System)の頭文字を取ったもので、読み方はウエックスです。環境制御を実現するための自律分散協調型のシステムです。詳しくはUECS研究会のウェブサイトをご覧になって頂けたらと思いますが、システムのイメージを簡単に説明しましょう。

『UECS』では、天窓開閉装置、カーテン開閉装置、暖房機などの環境制御機器にそれぞれマイクロコンピューターを搭載して、機器の制御信号をコンピュータネットワークで繋ぎます。『UECS』ではマイコンの搭載された動作機器のことをノードと呼びます。

そして、これらのノードはそれ自体でもある程度の判断ができるのですが、複数のノードがお互いにネットワークを介して通信して、協調して制御を行う、というものです。2005年頃から研究・開発が始まり実用化が進められているもので、現在いくつかの機能の製品が市販されています。IoTの走りと考えて良いでしょう。

ネットワークケーブルで情報交換が可能なので施工が簡単でありハウス環境制御のDIY用キット製品も市販されています。規模拡大や縮小に対して柔軟性が高く、拡張性も高い。また集中制御ではない自律分散型なので、故障しても全体が停止することがない、といった特徴があります。
 

 

環境制御システムの選び方

──それでは最後に、環境制御システムの選び方を教えてください。

高市:一番大切なのは、自身のハウスのサイズ・経営規模にマッチした製品を選ぶ、ということです。 どんなに優れた製品を導入しても、生産規模がマッチしていなければ、収益増加に結びつけることができません。導入コストに見合う増収が期待できるのか、事前に確認しておくべきです。また、導入するにあたって生産者ごとにそれぞれ、狙いがあるはずです。それが収量増なのか、コスト抑制なのか、あるいは作業効率向上なのか……それによって適した製品は異なります。
 


(提供:日本施設園芸協会)

 
そこで日本施設園芸協会では、平成30年度次世代施設園芸地域展開促進事業として、「(別冊4)農業用ハウス設置コスト低減のための事例集」を発行しています。同資料の巻末に、経営規模と導入目的に応じてハウス設備・機器を選ぶ目安を掲載しています。環境制御システムを選ぶ目安も提示していますので、参考にして頂けたら嬉しいですね。

本稿の読者は農業生産者さんが多いと思いますので、少し詳細についてお話します。市販されている環境制御システムのなかには、日の出・日の入り時刻の自動計算機能がないものもありますが、これらは時間帯区分の設定を時期的に変更する必要があり、手間が掛かります。また、環境制御設定値リストの一括保存機能・一括読込機能を搭載していない製品も存在します。

これらでは、記録に残しておきたい設定値リストを手作業で残しておかねばならず、翌作にはゼロから設定値の組合せを入力することとなり非効率です。設定値リストの一括保存機能・一括読込機能は基本的な必須の機能と言えるでしょう。
 

DATA

日本施設園芸協会

高市益行氏


取材・文:川島礼二郎

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