成功事例300名以上の施設園芸セミナー! コンサル会社が教える栽培戦略とは?
2021/09/22
栽培で壁にぶつかったら、“基本”に立ち戻って考えよう。シンプルで理論的な解決策を教えてくれるオープンセミナーが、このたび開催された。セミナーの様子とハイライトをリポートする。
施設園芸のプロによる
オープンセミナー
9月2日、デルフィージャパン主催のオンラインセミナー「施設栽培での植物生理と目標達成栽培戦略」が開催された。本セミナーに登壇したのは、デルフィージャパンのホーティカルチャースペシャリストである斉藤 章さん。
登壇者:ホーティカルチャースペシャリストである斉藤 章さん(デルフィージャパン所属)
国内各地の生産者のもとを訪れ、施設園芸や環境制御に関する最適な方法をレクチャーするかたわら、実践的な方法を伝える勉強会やセミナーで登壇している。直近のおよそ5年間で、斉藤さんのレクチャーをきっかけに、収量を130%以上増やした生産者が300名以上誕生したという。
ちなみに、今回のオンラインセミナーに参加したのは、合計およそ280名の人々。アンケートの結果、全体の70パーセントほどを生産者が、10パーセントほどを農業組合や自治体の職員が占めていることが分かった。
収量と品質アップのカギは
光合成にある
セミナーの冒頭、斉藤さんは、単位面積あたりの収量を増やす方法として「年間収穫期間の拡大」と「時間あたりの収量の増加」を挙げた。
「例えばトマトの場合、1年のうち10ヶ月を栽培期間にすることを目指してください。同時に、これを実現するための手段を実践していただきたいですね。定植後なるべく早く収穫できるよう、セル苗ではなく開花目前の苗を植える、栽培が終わった苗を取り除いた直後に定植できるよう、養液栽培を取り入れる、といったことが手段の例になります」。
前年よりも収量を増やし、利益を上げること。そして、常に成長できる手法を取り入れることが農業では重要。また、収量が増えれば、同時に作物の品質も向上するという。斉藤さんは、その仕組みをこう説明した。
「収量と品質アップのカギは光合成にあります。ほぼ全ての作物は、二酸化炭素と水、光をエネルギー源に、糖と酸素を作っています。光合成速度を増大させると、収量向上と品質向上の両立が可能になります。植物栽培でもっとも重要なのは、光合成といっても過言ではありません」。
光合成の仕組み
なお、収量と品質を高めるうえで有効なのは、光合成を活発化できる高光透過率構造のハウスと、遮光カーテンをはじめとする温度上昇を抑える資材。
しかし、こうした設備や資材を新たに導入するよりも、現在の設備を生かすかたちで対策を行うことが大切だという。
「どんな対策も、まずは手動でやってみてください。例えば『夜間にハウスの温度を下げたい』と思ったら、夜ハウスに出向いて、自ら天窓を開けましょう。『手動では間に合わない』と感じた時にはじめて、コンピューター制御などを取り入れるのです。機器に頼りすぎない姿勢をもつことで、無駄な投資を防ぐことができ、体感を通し目的と知識、技術、情報をもって投資することで、適切に使いこなせます」。
植物生理に関するしっかりとした知識や現在の施設を生かした対策が、収量増加につながるケースが多くあるようだ。
植物生理を理解し
理論的に考えることが重要
セミナーでは、植物体の中で糖が分配される流れ、葉における蒸散と吸水の仕組み、成長と発育の違いなど、植物生理の基礎となる内容もレクチャーされた。
また、斉藤さんは、高度な環境制御が行われているハウスでは、果実に適切な糖が流れる「生殖成長」よりも、多くの糖が葉に流れる「栄養成長」が起きやすい点も指摘した。そのうえで、「生殖成長」をうながす方法の一例として、次のようなメソッドを挙げた。
「まずは、『地上部の管理』をするのが大切です。光、温度、湿度、CO2を適切な量に調節しましょう。次に大切なのは、『地下部の管理』。土壌の水分量、EC、PHなどをしっかりと管理します。これらを整えた後、摘葉や摘果といった植物体の管理をします。この優先順位を守りながらそれぞれを整えることで、植物体の成長を「生殖成長」に傾けることができます」。
光合成、呼吸、成長、発育、糖の転流など、植物の営みには、さまざまなものがある。こうした営みをシンプルかつ理論的に理解することが、適切な作業や資材・機器選びにつながるという。
今後も必見!
具体的で実用的なセミナー
セミナーの後半では、ハウスにおける光の取り入れ方、CO2施与の重要性、湿度が植物にもたらす多様な影響など、具体的で実用的な知識も詳しく説明された。
また、栽培時のエラー軽減に役立つ方法が紹介されるシーンも。例えば「栽植密度」は、株あたりの受光量に大きく関わるものであり、収量や病気の発生の有無も決める。
斉藤さんは、適切な「栽植密度」を決定するには、「シミュレーション」の活用が有効だと話した。日射量、床面積あたりの着果可能数、果房(ふさ)あたりの着果可能数をもとに、シミレーションで適切な栽植密度を割り出すことができるという。植物栽培では、戦略的な姿勢ももつことも重要なのだ。
シミュレーションの事例(ミニトマト)
植物の生態から具体的な改善方法まで幅広い知識が展開された、オープンセミナー「施設栽培での植物生理と目標達成栽培戦略」。多くの生産者や農業関係者にとって、有益なセミナーとなったはずだ。
10月4日には、第2回目となるオープンセミナー「オランダの最新栽培技術、データ駆動型栽培管理」が開催される。登壇者は、「デルフィーオランダ」の有限責任会社に所属するマックス・ファン・デン・ヘイメルさん。
また、11月より、「デルフィージャパン」が主催する新たなオンラインセミナーが開始予定。トマト編とイチゴ編、2つのオンラインセミナーが同時にスタートする予定だ。それぞれ全8回。トマト編、イチゴ編共に申し込み受付中。
セミナー:オランダの最新栽培技術、データ駆動型栽培管理
開催日:10月4日(月)
セミナー:トマト編/イチゴ編
開催日:トマト編……11月2日(火)~全8回/イチゴ編……11月19日(金)全8回
※お好きな講習のみ選択し、受講することも可能です。
DATA
株式会社Dephy Japan
デルフィージャパンは、オランダに本社をもつ「食」と花を対象とする独立系コンサルティング会社で、2014年に設立された日本支社は、日本初となる民間の栽培コンサルティング会社。
会社設立の目的として「より高い知識レベルの提供により、日本の生産者に従来以上の利益を得るための支援をする」というメッセージを掲げている。
文:緒方佳子