土壌の保水力・保肥力を向上させる「EFポリマー」が日本随一の畑作地帯・十勝に上陸!
2024/03/26
インド発・沖縄育ちのスタートアップ企業が開発した、土壌の保水性をアップさせる「EFポリマー」が、世界中で注目を集めている。そんな「EFポリマー」が十勝地域で施用されたと聞き、お話をうかがった。
超吸水性を誇る「EFポリマー(Eco Friendly)」が
十勝地域で施用された
日本随一の畑作地帯として知られる十勝地域。ここでは広大な農地で大型機械を駆使して、ばれいしょ、てん菜、豆、小麦を基本とした4品目による輪作体系が構築されており、日本の食を支えている。そんな十勝地域の一つ、帯広市の南に位置する中札内村で昨季、世界中で注目されている農業資材が使われた。
EFポリマー 粉末タイプ。1kg、2kg、5kg、20kgのパッケージをラインナップ。粒状タイプも用意している。
近年、夏場に驚くほどの高温が続き、乾燥が1つの要因となり収量や品質を低下させる例が少なくないが、北海道でも過去数年にわたって記録的な小雨や干ばつの影響が続いている。また、世界情勢の変化で肥料価格が急騰していることがさらに生産者の利益を圧迫する要因になっている。そこに使えるのが「EFポリマー」だ。「EFポリマー」はオレンジの皮などの果物の不可食部分をアップサイクルして作られた、自然由来の超吸収性ポリマー=土づくりに使える資材だ。EFポリマーは農作物の生育に適した吸水量(自重の50倍の保水力)を有し、土中で半年間水の吸水・放出を繰り返す。また、この保水力を軸に、水分に溶けだした肥料を合わせて保肥することができることも特徴となっている。更に、従来廃棄されていた作物残渣が原料であり、100%有機かつ生分解性を有すため、化学合成された石油由来の高分子ポリマーと比較して地球、生産者にとっての最も重要な土壌に優しいのが特長だ。この性質を活かすことで、環境に負荷を掛けることなく生産コストを下げながら収量増が期待できる。日本において「EFポリマー」は有機JAS(資材リスト)認定を取得している。
インド発のスタートアップが日本へ! EFポリマーの歩み
EFポリマー社を創業したのはインド人の青年、ナラヤン・ガルジャールさん。インド北部の人口300人という小さな村で生まれ育ったナラヤンさんは、両親を含む村の農業生産者が水不足に悩む姿をみて育った。「いつか水不足に悩む両親や村の仲間を助けたい……」との想いから大学で農業を学び、2018年にEFポリマー社を創業した。
インド大統領官邸での「ベストイノベーションアワード2019」授賞式(右から3番目:アワードを受け取る同社CEOナラヤン)
日本との縁は沖縄科学技術大学院大学(OIST)のイノベーションアクセラレータープログラムに選ばれたことで始まった。ここで最終製品が完成して、沖縄に本社が設立された。その後、JAアクセラレーターにも採択された。製品はグローバルでは2020年、日本では2021年末から発売され、現在に至っている。
札幌で昨年12月に行われた、「Farmnote Summit サステナブルインパクトショーケース」授賞式(写真真ん中:GOLD賞を受賞した同社COOの下地邦拓さん)
初期生育に明確な効果が出た!
施用方法の確立に期待
十勝地域で「EFポリマー」を使用したのは、同地域で典型的なばれいしょ、てんさい、豆、小麦の4輪作体系で営農している中札内村の北島卓弥さんだ。家族経営だが圃場面積は77haを誇る。北島さんとEF Polymer株式会社 事業開発部マネージャーをつとめる塚田裕美さんが、昨季実績の確認と来季に向けた打ち合わせを行う日に合わせて、取材させていただいた。
北海道中礼内村・北島卓弥さん
北島さんが最初に、導入の切っ掛けや狙いについて教えてくれた。
「うちの圃場は乾燥に弱く、そのうえ近年は、私が就農した20年前には考えられなかったくらいに暑い日が続き、そうかと思うとゲリラ豪雨のような大雨が降るなど変動が大きくなっていることを強く感じています。土壌の保水力を高める方法はないかと探していて出会ったのが『EFポリマー』でした」。
「EFポリマー」を施用したのは、ばれいしょの約1ha。北島さんが作る加工用ばれいしょ「きたひめ」はポテトチップスなどの製品用にカルビーポテトに納品しているため、事前にカルビーポテトに相談の上、EFポリマー社の指導のもとに施用した。
散布量は1haに対して「EFポリマー」20kg。肥料に混和して4月下旬に散布した。
気になる「EFポリマー」の効果だが、それは初期生育に明確に表れた。写真は植え付けから約2ヶ月後、6月28日に撮影されたもの。「EFポリマー」を施用していない慣用区(右側)は疎(まばら)だが、試験区(左側)は明らかに生育が揃っている。
「土の表面をみても施用の有無で違いは感じませんでしたが、初期生育は明らかに違っていました。保水力と保肥力が上がっていることや土壌の物理改善がされていることなど、EFポリマーの効果ではないかと実感できました。ただ、残念ながら最終的な収量は数%しか上がりませんでした。初期成育の良さを生かすことができれば、収量増も実現できるはずなのですが……」と北島さんは残念がる。
「EFポリマーは小袋しかなくて、開封して投入する手間はありましたね」と北島さん(写真右)が苦笑いすると、塚田さん(写真左)は「そのようにうかがったので早速20kgパックを作りました。来年は大丈夫です!」と即答。コミュニケーションを取りながら、製品をブラッシュアップしている。
これに対して塚田さんは「実は今回、サトウキビで良い結果がでていた20kg/haという割合で混和していただきましたが、2023年に他の作物で得られた試験結果をみると、もう少し多く入れることで収量がさらに増える可能性がありますし、収量への影響のバランスを分析しながら、北島さんの圃場に最適な配合量を見極めてみませんか?
」と力を込めた。
北海道でのEFポリマーの利用は始まりの段階であり、北島さんのように先駆的に取り組む農家とメーカーであるEFポリマーが二人三脚で試行錯誤している。それでも北島さんは「これからもう少し面積を増やしたいし、収量も上げて行きたい。それにはEFポリマーのような新たな資材の力が必要」と前向きだ。北島さんとEFポリマーの挑戦は、まだ始まったばかりなのだ。
「EFポリマー」は1年で完全に分解するが、EFポリマー社の最近の研究では、「EFポリマー」が吸水・放出する過程で膨らんで萎むことで、土壌に気相(すき間)を作り良い微生物の住み家となり、土壌の生物性を改善する可能性が示唆されている。また、優れた吸水力を活かして、湿害対策にも活用ができないか、これから試験が行われる予定だという。
干ばつなどの厳しい環境においても優れた性質を発揮する「EFポリマー」の秘める可能性に、農業生産者にも注目していただきたい。
問い合わせ
写真:平栗玲香 取材・文:川島礼二郎
Sponsored by EF Polymer株式会社