【物流2024年問題】市場を介さない「やさいバス」地産地消の共同配送で物流コストをカット
2024/05/22
前回取り上げた「物流2024年問題」。大ロットでの輸送を必要としない農業法人や個人農家などの「小さな物流」には、複数の生産者が共同でトラックをシェアするような取り組みも有効。デジタルツールを活用した地産地消の共同配送を全国展開する「やさいバス」を紹介しよう。
参考記事:「【物流2024年問題】トラックの時間効率を向上する「パレット循環体制」とは?」はコチラ
約40km圏内の共同配送で
コスパよく新鮮野菜が届く
大手スーパーに設けられた「やさいバス」コーナー。
2017年より静岡県でスタートした「やさいバス」は、市場を介さずに青果農家と飲食店や小売店などの利用者を直接つなぐ、地域密着型の輸送サービスだ。現在の物流システムは、ハブとなる中心拠点に貨物を集約させ、拠点(スポーク)ごとに仕分けして運搬することで輸送効率を上げる「ハブ&スポーク方式」がメイン。
例えば、静岡で採れた野菜を静岡で消費する場合、いったん東京など大消費地の市場に運んでから静岡のスーパーに届けられる。一方、「やさいバス」は、集荷場の拠点を設けた片道約40km範囲の配送エリアを冷蔵トラックが巡回する。農家は最寄りの拠点に野菜を持ち込み、利用者も最寄りの拠点まで出向いて野菜を受け取る方法で、注文した即日~2日後には野菜が届く。
片道約35~40kmの配送エリア内に、バス停(集荷場)を設置し、「時刻表」にあわせた「やさいバス」が巡回。Webで注文が入ると、生産者はバスが巡回する時間までに野菜を専用コンテナに入れて運び、やさいバスの運転手が集荷。運転手は指定されたバス停にコンテナを置き、利用者がそれを取りに行く。
コスト面でもメリットが大きい。「ハブ&スポーク方式」の場合、長距離輸送や卸売費、大規模倉庫などの流通の経費がかかり、スーパーなどでの販売価格は農家出荷価格の約2倍といわれている。一方「やさいバス」は、販売価格は生産者が決め、その15%がやさいバスの販売手数料になる。野菜を積むコンテナの利用料1ケース当たり税込み440円と手数料15%を支払っても、ハブ&スポーク方式より2~3割は農家の収入が増えるという。
バス停の設置場所は、直売店や農園、卸売市場などさまざま。
農家と購入者は、やさいバスのWebページを介して取引する。購入者はWebページに記載された生産方法や農家の情報をもとに購入できるので、生産者の顔とストーリーが見える取引で安心だ。「やさいバス」は2024年3月時点で14都道府県にて運行中。物流問題の新たな解決策として、運行エリアはますます広がっていきそうだ。
現在、14都道府県で運行し、参加する農家は約1800件、利用者は約3200件まで増えている。
「やさいバス」を運営するエムスクエア・ラボ(静岡県牧之原市)の加藤百合子さん。NASAの宇宙野菜工場のプロジェクトに参画した経験を持つ。2021年には「さかなバス」もスタート。
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取材・文:後藤あや子
AGRI JOURNAL vol.31(2024年春号)より転載