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喜界町で実践する新しい排水対策。目詰まりしにくい暗渠排水材「ドレインベルト」に迫る

喜界島の農業といえば、サトウキビとゴマが特産品。近年は高付加価値作物の施設栽培に挑戦する者もいる。そんな喜界島農業に共通する課題が、排水性・通気性・保水性など「土壌の物理性」の改善。それを解決すべく、新たな挑戦を始めた生産者を取材した。

メイン画像:サトウキビを栽培する開孝行さん(左)と、喜界町農業振興課の森卓人さん(右)。

<目次>
1.新たな暗渠排水材導入で、土壌の排水性改善へ
2.ドレインベルト施工とは?

 

新たな暗渠排水材導入で
土壌の排水性改善へ

鹿児島市から380km、奄美市から69kmの洋上に浮かぶ喜界島。畑地灌漑営農によるサトウキビやゴマの生産で全国的に知られている。そんな喜界島の農業には、共通した課題があるという。喜界町農業振興課の森卓人さんが教えてくれた。

見渡す限り広がるサトウキビ畑に真っすぐに伸びる2.5kmの道路は「サトウキビ畑の一本道」と呼ばれる島の観光名所。

「喜界島はサンゴ礁を起源とする石灰岩でできた島で、透水性が高く、恒常的に水不足に悩まされてきました。水不足を解消するために地下ダムを作り、それにより畑地灌漑営農が実現した、という歴史があります。一方で、地下から湧水が出たり、岩盤層の影響により水が溜まるなど、排水性が極めて悪い圃場が多数あります。そうした圃場では雨が降った後に作土が粘土のように絡まり、農業生産に悪影響を与えています」。

島の若手農業生産者は、この課題の解決策を探していた。その1人が、サトウキビを栽培している開孝行さんだ。

サトウキビを24ha・約100枚の圃場で栽培している開孝行さん。奄美群島糖業振興会主催の「第1回キビ1グランプリ」で最優秀賞を受賞。作業の機械化やデータに基づく計画的な土づくりなどに積極的に取り組む。

「町が支援してくれている4Hクラブの視察で仲間が発見したのが『ドレインベルト』です。うちの一部の圃場は地下水位が高く、作土を20cm掘ると水が出てくるような場所がありました。そこは根腐れが起こり、草丈は伸びず、収量もサッパリ。ハーベスターが入るのも難しい。緑肥による土づくりも行っていますが、これだけ排水性が悪いと根本的な解決が必要だと思っていました。そこで思い切って、60m×5mの範囲で『ドレインベルト』の導入を決めました」。

主管の施工は有孔管パイプの暗渠と同じだが「ドレインベルト」は周囲を砂利・礫で埋めず、砂を足して埋め戻す。また、傾斜をつける必要がないから施工が容易だ。

「ドレインベルト」は一般的な有孔管暗渠とは異なり、主管には穴がなく、主管に接続する板状のシートが土壌から水を集める。そのため目詰まりしにくく、長期間安定して排水できる。施工性が高いのもメリットだ

導入後は「雨が降らなくても水が出続けている」(開さん)とのこと。

開さんとともに「ドレインベルト」を導入した園田裕一郎さんは、ハウスでパッションフルーツとメロンを、露地で島固有種のミカンを栽培している。今回は特に排水性が悪い5aのハウスで施工した。

パティシエ、役場職員(園芸品目指導)を経て、新規就農した園田さんは、ミカン(島固有種)を1ha、パッションフルーツ・メロンを27aのハウスで栽培。自社で加工品も生産して販売する他、島外の物産展に出品するなど、次々と新しいことに挑戦している。

「ハウスが盆地にあるためか排水性が極めて悪いんです。雨が降ると土が粘土のように絡まり、移植前の中耕ができず困っていました。『ドレインベルト』は長期間使えると思い、導入を決めました」。

2人の挑戦を喜界町も後押ししている。森さんは「土壌の物理性改善は島全体の課題ですから、導入費用の補助について検討しています」と話す。町の支援が実現すれば、新しい暗渠排水材によって、喜界島に共通する課題である「土壌の排水性」を一気に改善してくれる可能性がある。

園田さんのハウスも施工を終えたばかりだが「数日前に雨が降ったのですが、ずっと排水され続けています」と、目に見える効果に期待は高まる。

 

ドレインベルト施工とは?

「ドレインベルト」は幅20㎝、厚さ2㎜の軟質ポリ塩化ビニル製の板状のシート。これを塩ビ製の主管の両側に這わせ、主管に接続して使う。「ドレインベルト」の裏面には細かい切れ込み加工が施されている。切れ込みがある方を下にして敷設することで、表面張力・毛細管現象・サイフォン現象という自然の原理を利用して排水する。

土壌中の水分は表面張力により、ベルトの切れ込みに入り込んでいく。

水は毛細血管現象によりベルトの切り込み奥に到達し、切り込みに沿って、主管に流れる。不純物は重力により土壌へと返っていく。

ベルトから主管には、サイフォン現象が利用される。だから目的地点(主管)まで、途中で出発地点より高い地点があっても水を導くことができる。

これまでの施工方法との違い
1 目詰まりしにくい
“下から水を吸い上げる”自然の原理により、目詰まりがしにくい。

2 施工性が良い
表面張力・毛細管現象・サイフォン現象を利用して水を流すから傾斜が不要。

3 残土が出ない
主管の周囲に礫などを新たに埋める必要がない。だから残土が出ない。

問い合わせ

古河産業株式会社
担当:後藤
TEL:080-8710-6133


文:川島礼二郎
撮影:田村涼

AGRI JOURNAL vol.35(2025年春号)より転載

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