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米不足の春・・・田植え最盛期に異常低温。政府備蓄米の放出に生産農家のやり場のない不安な思い

今年の田植えシーズン、東北地方の日本海側は肌寒い日が続いている。冷たい風や雨にさらされて、葉先が枯れてしまった苗をところどころで目にする。初期生育の不良による作柄への影響が心配だ。

<目次>
1.田植えの最盛期に肌寒い天気が続く
2.5キロ2000円で政府備蓄米を店頭に
3.政府備蓄米の大量放出に生産農家は複雑な思い

 

田植えの最盛期に
肌寒い天気が続く

田植え取材に出かけた5月23日も肌寒い天気に(秋田県秋田市)

宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」に「サムサノナツハオロオロアルキ」という一節がある。夏の寒さは稲に冷害をもたらす。凶作になってしまうとわかっていても、自然を相手になす術(すべ)がない。賢治は米づくり農家のやり場のない不安な気持ちを表現したのだろう。

東北地方の日本海側は、田植えが本格化する5月20日以降に最高気温が20度を下回る肌寒い日が続いている。

「最近は田植えの時期に、毎年のように異常気象に見舞われている。初期生育が不良のまま、7月から気温が一気に上がるので、ヒョロっとした弱々しい稲に育ってしまう」と嘆くのは、秋田市の渡辺雄孝さん(70歳)。

取材に出かけた5月23日は最高気温が17.1度。朝から冷たい風が吹き付け、渡辺さんは厚手の防寒具を身に着けて田植え機に乗っていた。

渡辺さんは7ヘクタールで米を栽培する専業農家だ。このうち、4.6ヘクタールであきたこまち、残りの2.4ヘクタールで加工用の酒造好適米を栽培している。渡辺さんは高校を卒業後、約5年間カナダへ農業研修に出かけて、大規模な畑作を目の当たりにした。「じゃがいもや牧草の栽培を手伝っていたが、日本とはケタ違いのスケールの大きさに驚かされた」と懐かしむ。国際競争力を高めるため、渡辺さんは30代のときから農地の大規模化に取り組んできた。

田植え葉先が枯れてしまった苗(秋田県秋田市)

秋田市南部の雄和地区に住む渡辺さんは、5月18日から田植えを開始した。

雄和地区は山あいにあるため、平野部に比べると田植えの時期が3~5日程度遅いが、上空に寒気を伴った低気圧の影響で20日から春先のような肌寒い日が続いている。秋田市雄和の最高気温は20日が15.8度、21日は17.6度。田植え2日目の19日には最低気温が6.2度まで下がった。

渡辺さんの田んぼでも、植えたばかりの苗が冷たい風や雨にさらされてブルブル震えているように見えた。葉先が枯れてしまった苗もところどころで見受けられる。

「田植えのあとに寒い日が続くと、苗がしっかり根付かずに根の張りが鈍くなったり、苗が萎縮したりするおそれがある」と渡辺さんは心配そうに田んぼを見つめる。

今年の春は寒さから苗を守るため、田んぼに水を深く入れる「深水管理(ふかみずかんり)」を心がけている。



5キロ2000円で
政府備蓄米を店頭に

取材に出かけた5月23日、小泉進次郎農相は、政府備蓄米の店頭価格について「5キロ2000円を実現する」とNHKの番組で語った。大手の小売業者を対象に随意契約で政府備蓄米を放出するという。小泉氏は放出量について「まずは30万トン。30万トンを超えても需要があれば無制限で出していく」と述べた。早ければ6月上旬にも店頭に並ぶことを想定している。

農林水産省は5月26日、省内にコメの価格高騰に対応する新たなチームを立ち上げた。発足式で小泉農相は、「安くおいしいお米を一日も早く消費者に届けるのが喫緊の課題だ。これ以上、高止まりをさせず、米離れを防ぐことで、農林水産省の責任を果たしていく」と話した。

政府備蓄米の大量放出に
生産農家は複雑な思い

渡辺雄孝さん心配そうな表情で田んぼを見つめる渡辺雄孝さん

米づくり農家の渡辺さんは、政府備蓄米の大量放出を複雑な思いで見つめている。

「いまの政府備蓄米は、平成5年の米の大凶作を教訓に異常気象に備えて制度化したものだ。米の大幅な値上がりは、ここ数年の米の生産量の落ち込みを見過ごしていた国の政策ミスによるものではないか」。

AIやIoTなどのテクノロジーが開発されても、農業はその年の天候や自然条件に左右されることに変わりはない。米づくり農家の渡辺さんは、山あいの数か所に分散する田んぼにこまめに足を運んで水の量を調節し、低温の影響を最小限に抑えるように努めている。


取材・文/アグリジャーナル編集部

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