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中山間地で有機農業を規模拡大!やる気を育てる農業法人の組織運営とは?

奈良県宇陀市の山口農園は、中山間地域で有機農業を行い、生産規模を拡大している。国の雇用就農資金を活用して安定した雇用環境を整備するとともに、独自の人事評価制度を導入して、社員のやる気を育てている。

メイン画像:奈良県宇陀市の中山間地で有機農業に取り組む(写真提供 山口農園)

<目次>
1.中山間地で生き残るため有機農業を規模拡大
2.資金、待遇、主体性がキーポイント
3.独自の人事評価制度で社員のやる気を育てる

 

中山間地で生き残るため
有機農業を規模拡大

山々の合間を縫うように建てられたビニールハウス。それは平野部で見かけるきれいに並んだハウスばかりではない。時にV字に向かい合わせながら狭い土地を有効活用する、中山間地域の特徴ともいえる光景である。

山口農園で出荷する野菜はすべて有機JASの認証を取得。畝を作らず、ハウス一面に栽培するのが特徴だ。(写真提供 山口農園)

奈良県宇陀市の山口農園は山あいの限られた農地でビニールハウス171棟を所有し、経営面積が10ヘクタールに及んでいる。しかも、すべてのハウスで有機JASの認証を取得している。中山間地において、これほどの規模で有機農業に取り組む農業法人は全国的にも珍しい。

山口農園 代表取締役 山口貴義さん。サラリーマンや公務員を経験後、山口農園に加わった。(写真提供 山口農園)

「ここは典型的な中山間地で、効率の良い農業を行わないと割に合わないうえに、会社組織として続いていかないのです。そのためにも付加価値の高い作物、つまり有機JAS認証を得た有機野菜にこだわって育てています」
そう語ってくれたのは、山口農園 代表取締役社長の山口貴義さん。山口さんは妻の父親が手がけてきた有機農法の農園に、2005年の法人化のタイミングで参加した。それ以降、生産規模の拡大や効率化、人材育成に邁進し、2013年に代表を受け継いだ。標高の高い大和高原の冷涼な気候を生かして、ほうれん草や小松菜、水菜などの葉物野菜や、ハーブ類を有機栽培し、大手量販店や飲食店など70社に出荷している。
 

資金、待遇、主体性が
キーポイント

正社員は約15名、アルバイトやパートなど、合わせて約60名のスタッフが勤務する。(写真提供 山口農園)

奈良県北東部の宇陀市は、農地の多くが中山間地にある。かつては、山口農園の周辺に個人経営の農家がたくさんいた。しかし、平野部に比べて1区画の面積が小さく、生産効率も悪いため離農する人が相次いでいる。山口さんは、離農した人達から農地をビニールハウスごと引き取って経営面積を増やしてきた。経営規模を拡大するには、人材を確保し、組織として強くなる必要があると山口さんは強調する。そのため、国や自治体の補助制度を活用するとともに、組織の仕組みの見直しや従業員の主体性アップなど、さまざまなことに取り組んできた。

資金面で利用したのが、国の補助金の「雇用就農資金」だ。40代以下の農業従事者を増やすことを目的とした制度で、雇用就農者ひとりに対して年間最大60〜120万円の助成金が最長4年間交付される。

「正社員、研修生、アルバイトなどの雇用形態がありますが、前身の制度である『農の雇用事業』の頃から、正社員を雇う際に活用しています。長期・安定的に雇用する際に非常に助かっています」(代表の山口さん)。

従業員は、加工部、生産部、収穫部、調整部など、7つの部門に配置され、完全分業で計画的に農業生産や加工品の製造などに取り組んでいる。正社員は安定した雇用環境で働き続け、有機栽培の技術を習得し、ハウスの管理、生産計画の立案といった仕事を任される。そうした人材を育成するため、国の「雇用就農資金」を有効活用している。

 

独自の人事評価制度で
社員のやる気を育てる

定期的に一般向けの収穫体験や就農体験を開催。収穫の楽しさの他、微生物をたっぷり含んだフカフカの土を体感することで有機農業への理解を深めてもらう取り組みだ。(写真提供 山口農園)

山口農園では、自己評価シートをもとに社員ひとりひとりの業務内容を評価する独自の人事制度を導入している。人事評価を参考にして昇進や昇給を決定し、社員のモチベーションアップを図っている。その他にも正社員は、イベント、広報、AI、美化の4つの委員会に所属して、社内イベントの企画や農園のPR、オンライン商談の環境整備などを担当し、自主的に会社運営に関わる仕組みを整えている。

「自分の仕事だけしていると、会社がどこへ進んでいるのかわからなくなるときがあります。やる気というものは、自分が会社に必要にされたり、自分が会社を動かしていることを実感したりしないとわきおこってこないと思います」(代表の山口さん)。

農園で有機農法を教え、独立も支援。そうして有機農業の輪を広げていく。(写真提供 山口農園)

農園で働く人の中には、ゆくゆくは独立して就農したいと考えている人もいる。その場合は研修生として入社し、卒業後は山口農園から農地を譲り受け、「山口農園グループ」の一員として近隣で就農することができる。この仕組みは、有機農業の希望者が就農する際に障壁になりがちな、「良い土地がない」、「採算がとれる販路が見つからない」、「地域とのコミュニケーションがとれない」といった課題の解決につながると山口さんは説明する。

「農地としての実績がある土地を譲れば、すぐに有機農業を始められます。収穫した有機野菜は山口農園が買い上げて販路に乗せます。3つめのコミュニケーションについては、すでにわれわれとの信頼関係ができている地域なので『山口農園の卒業生ならぜひ』と受け入れてくれて、信頼関係を構築しやすいのです」(代表の山口さん)。

長年にわたって山口農園が築いてきた地域との信頼関係をもとに、有機野菜の栽培に集中できる環境を整える。山口農園と新規就農希望者の双方にメリットがあるうえに、有機農業の担い手を育成するモデルにもなっている。

「中山間地域」「有機農業」という2つの難しいテーマがあっても、工夫次第では収益確保と人材育成の両立が可能である。山口農園の取り組みは、それを如実に体現するモデルケースといえそうだ。

DATA

山口農園


取材・文/本多祐介

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