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【農福連携】障がい者雇用の「はーとふる農園よこすか」は、なぜ高賃金を支払えるのか?

日建リース工業と神奈川県横須賀市とが「はーとふる農園よこすか」を開設し、包括連携協定を締結した。そこで就労する障がい者の賃金は、通常の倍近くになるという。

<目次>
1.日建リース工業と横須賀市が、障がい者雇用の農園を創出
2.約22aのハウスで60名を雇用する「はーとふる農園」の概要
3.「はーとふる農園よこすか」が、高賃金を支払うことができる秘密

 

日建リース工業と横須賀市が
障がい者雇用の農園を創出

2025年4月18日、日建リース工業と神奈川県横須賀市とが横須賀市役所にて記者発表会を開催し、両者で新たな障がい者雇用の場の創出を目的とした「はーとふる農園よこすか」を市有地(浦賀火葬場跡地等)に開設すること、また障がい者の就労機会の創出等を目的とした包括連携協定を締結した、と発表した。

神奈川県横須賀市は、同県南東部から太平洋に伸びる三浦半島に位置する中核市であり、人口は36万人強(2025年1月1日現在)。小学校で習った黒船(ペリー)が来航した浦賀沖とは横須賀市沖のこと。江戸時代に幕府により造船所が、また第二次世界大戦前には日本海軍が開設された。古くから工業が盛んであるほか、農産物の一大産地でもある。大根、キャベツ、カボチャを中心とした露地野菜が特に知られている。

日建リース工業は、業界随一である1,000億円超の建設用レンタル機材を保有する仮設資材のリーディングカンパニーだ。それでいて18年より全国6カ所に農業で障がい者の就労を支援する「はーとふる農園」を展開してもいる。

記者発表会には、横須賀の上地克明市長と日建リース工業の関山正都副社長が出席。「はーとふる農園」の第7弾となる「はーとふる農園よこすか」の開設と、横須賀市と日建リース工業の包括連携協定の締結を発表した。

それにより、

(1)市内在住の障がい者の就労機会の拡充する
(2)雇用契約に基づく就労により障がい者が最低賃金以上の給与を得られる
(3)近隣からスタッフを採用することで地域の雇用を創出する

を効果として期待している。

かねてより横須賀市は、「就労系障害福祉サービスなどの福祉的就労では、十分な賃金を得ることが困難である」という状況を、障がい者を取り巻く課題として認識していた。十分な賃金を得られなければ、障がい者は安心して生活できない。そこで横須賀市は、障がい者が経済的に自立可能な就労の場を立ち上げようとした。言い換えれば、障がい者に高賃金を支払うことができる仕組みの構築を目指した。

約22aのハウスで60名を雇用する
「はーとふる農園」の概要

それを実現するのが日建リース工業の「はーとふる農園」だ。今回開設される「はーとふる農園よこすか」の概要を見て行こう。

農園は最寄り駅の京浜急行電鉄浦賀駅から約1,100m(徒歩16分)。上掲写真の空地部分などにハウスが9棟建てられる。(写真提供:横須賀市)

敷地は横須賀市が所有している遊閑地(浦賀火葬場跡地等)であり、面積は約40a。ここを年間200万円で日建リース工業に賃貸する。そこに日建リース工業は全9棟・施設面積合計約22aにもなる農業ハウスを建設。ベビーリーフを栽培する。

農園の運営は日建リース工業が担う。農場長のほか、栽培を専門とする従業員と福祉を専門とする従業員、合わせて5名が配属される。農園の主戦力となる障がい者就労者は60名を、彼らをサポートするスタッフとして地域から約10名の雇用を予定している。

障がい者就労者の就労時間は9:30~16:30(休日は土日祝日・夏季・年末年始など)。週5日、現地まで自力で通えること、説明を聞き理解し指示を守れること、など。時給契約社員として雇用され、給与は一般的な福祉雇用の倍近くとなる約15万円を予定している。

ベビーリーフの販売については、近隣の飲食店や大手スーパーへの直販を見込む。既存の「はーとふる農園」では、自社で各飲食店・大手スーパーの集配所まで直接配送しており、「はーとふる農園よこすか」でも、同じ方法がとられる。これは高単価での販売を目指してのことである。

「はーとふる農園よこすか」が
高賃金を支払うことができる秘密

これだけ立派な施設を建てれば、確かに両者が目指す「(1)市内在住の障がい者の就労機会の拡充」は、かなり達成される。だが、問題は(2)の最低賃金以上の給与。福祉雇用の倍近くになる給与は、ただ直販するだけで実現するのは、容易ではないはずだ。説明してくれたのは、日建リース工業ハウス備品事業本部障がい者農園事業部長の仁平哲治さんだ。

「賃金の前に、まずは働いてくださる障がい者の方にとって持続可能な農業、言い換えると、働きやすい職場を実現しました。そのための工夫が、作目をベビーリーフに絞ったことと、高設の砂栽培です。

ベビーリーフは年11回収穫できますから、栽培スペースを変えることで、播種をして、収穫をして、という一連の作業を毎日行うことができます。単純作業が延々と続くのと違い、作業の結果を日々体感して働くことができる。これが障がい者の方にとって、励みになるのです。

高設栽培が作業する方にとって負担が少ないことは、農業関係の方ならご存知のことと思います。また砂栽培は、土壌由来の病害がほぼ出ない、という栽培管理上のメリットだけでなく、作業者の服や手が汚れない、という労働環境上のメリットがあります。さらに、言葉にするのは難しいのですが、障がい者の方がまるで砂遊びをしているような、そんな楽しい感覚を得ながら働くことができることも、砂栽培のメリットなんですよ」

これ以外にも、「はーとふる農園」にはノウハウが詰め込まれている。ベビーリーフの収穫は機械で行うことが多いが、それだと葉が切断される形となり、鮮度を維持するのが難しい。そこで「はーとふる農園」では一定程度に成長した葉のみをハサミで収穫する。完全リーフ体で収穫するから鮮度を長く維持できる。これは高単価販売に寄与する工夫だ。

ハウスの骨格と高設台は、建設現場で使われていた足場の転用。培地は砂を使用する。

また、そもそも同社は建設現場で使われる足場のリースを主業としているのだが、近年の安全意識の高まりにより、より安全性の高い足場へと、足場資材を更新した。その結果、頑丈ではあるものの工事現場で使うことができない足場が大量に発生した。これを農業ハウスの骨格に流用している。

以下は推察だが、すでに保有している足場をハウス建設と高設作業台に流用できるから、おそらくきっとハウス建設にかかる初期投資も少なくて済む。実はこれこそが、「はーとふる農園」が高賃金を支払うことができる=高収益をあげることができる秘密であると思う。

冒頭で記したように、横須賀市は36万人を越える人口を有しており、企業や工場も多い。一方で、働いても満足な賃金を得ることができない障がい者は、今回「はーとふる農園よこすか」で勤務する60名よりも多いはずだ。包括連携協定を結んだことから、今後さらに横須賀市で「はーとふる農園」が増えていくと思われる。運用が始まったら機会をみつけて、是非、取材してみたい。


文/川島礼二郎

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