〈基礎知識〉いちご栽培に向いたハウスとは? いちご栽培専門家がメリット・デメリットを明快に解説
2020/12/21
イチゴ栽培に欠かすことのできないビニールハウス。理想と予算のバランスを考えながら、目的に合ったビニールハウスを設置するための取捨選択を行おう。いちご栽培の専門家による連載第3弾の後編。
連載第1回 前編『〈基礎知識〉いちごの養液栽培とは? 特徴や他栽培方法との違いを解説』はコチラ!
連載第2回 前編『農業ビジネスは立地が重要! いちご栽培に向いている地域とは?』はコチラ!
連載第3回 前編『〈基礎知識〉いちご栽培に使うビニールハウスの入手方法』はコチラ!
単棟と連棟の
メリット・デメリット
単棟と連棟のメリットとデメリットを説明します。単棟とは間口一つ分だけのビニールハウスで、連棟は間口が複数連なったものです。単棟のメリットは、風が抜けやすいので、温度が高くなりにくい点です。デメリットはビニールハウスの間にある通路の分だけ土地が無駄になる点、表面積が大きいので温度変化しやすい点、ビニールハウスの移動に時間がかかる点。
いちごの夏秋栽培では、ビニールハウスの中の温度を下げたいので、単棟を使うことが多いです。連棟のメリットは、表面積が小さいので温度変化しにくい、作業性が良い、通路がいらないので土地の利用効率が良い点。デメリットは熱がこもりやすいこと。
いちごの促成栽培では、ビニールハウスの中の温度を上げたいので、連棟を使うことが多いです。また、雪が多い地域では、ハウスの構造ごとに雪対策も考えないといけません。単棟の場合には通路の雪かきが必要ですし、連棟は天井の雪を溶かす必要があります。
ハウスの強度
ハウスの強度についても考えてみましょう。日本は台風と雪がある国なので、海外よりもビニールハウスの強度が必要になります。そのため、日本はビニールハウスのコストが高いです。
台風や強風対策には、耐風性が大切です。市販のビニールハウスですと、耐風性が表記されていることが多いです。例えば、風速20〜50mくらいに耐えられます。パイプのビニールハウスの場合、これまではパイプの太さが19〜22mmでも問題ありませんでしたが、ここ数年の大型台風の対策としてもっと太いパイプを使った耐候性のビニールハウスが求められています。
ビニールハウスの強度が強いほど、倒壊などのリスクは減らせます。しかし、コストが高くなり、収益性が悪化してしまいます。リスクと投資のバランスを考えて決めましょう。そのためにハウスを建てる前に、その土地の積雪量と台風の風速をあらかじめ調べておくのがおすすめです。
フィルムによって
特徴はさまざま
次はフィルムについて説明します。農業用ビニール(農ビ)、農業用ポリオレフィン(PO)、フッ素フィルムの3種類が一般的です。また、ガラスが使われる場合もあります。
農ビはコストが安いですが、劣化が早いです。フッ素フィルムはコストが高いですが、透光性が高く、長期間使えるのが強みです。バランスが取れていて使用頻度が高かったのはPOですが、最近ではフッ素フィルムが人気です。
紫外線カットフィルムもあります。その名の通り、紫外線をカットできるフィルムです。メリットは害虫の行動を抑制できること。デメリットはミツバチの行動も抑制してしまうことです。そのため、いちご栽培では使われません。
散乱フィルムもあります。散乱フィルムは光を散乱させるので、骨組みなどの遮蔽物があっても影ができにくいことが特徴です。それにより日射量が少ない冬でも、光合成を促進できます。
透光性が重要
ビニールハウスでは透光性も重要です。例えば、トマトでは「透光率が1%下がったら、収穫量が1%落ちる」という1%理論が有名です。イチゴはそこまでではないにしろ、日射量が少ない冬に主に育てられるので、透光性は大切です。
そのため、透光率が落ちにくいフィルムを使ったり、植物の上部に物を設置しないようにしたり、光を反射させるために柱を白く塗ったり、いろんな工夫をします。
透光性のことを考えると、天井の支柱はできるだけ細いパイプを使い、できるだけ広い間隔で設置すべきです。しかし、そうすると今度は耐久性が下がってしまいます。そのため、透光性と耐久性のバランスを取らないといけません。
地域や事業計画に合ったものを
ビニールハウスには、地域性があります。例えば、北海道や東北では雪対策や暖房効率を重視したビニールハウスが多いですし、九州では台風対策や低コスト化を重視したビニールハウスが多いです。
パイプハウスや鉄骨ハウスはコストが違いますし、それぞれメリットとデメリットがあります。事業計画や経営方針から逆算してビニールハウスの構造や予算を決めましょう。
PROFILE
株式会社イチゴテック
代表取締役
宮崎大輔
いちご農園の新規立ち上げや栽培改善、経営改善をサポートしている。