グッドデザイン金賞のヤンマー製トラクター、何が凄いの?
2016/11/14
同シリーズの金賞受賞は、シリーズそのものが優れているだけでなく、その開発背景と、ヤンマーが示した未来へのビジョンが大きく影響を与えている。そもそも同シリーズが目指したのは、「これからの日本農業を担う若い農業家が誇りを持てるような製品群」である。
日本における農業機械分野のリーディング・カンパニーである同社では、同シリーズ企画に際して、日本の農業が若い担い手により活性化しつつある今、彼らが農業にさらなる夢と誇りを持つ一助となる製品を、との思いを込めた。この志の高さが、厳しい審査の過程で評価を得たに違いない。
そのための具体的な手段として、最先端のテクノロジーを投入した製品群に、ジャンルを越えた美を与えている。既存のトラクターは確かに機能的には充分であったが、その外観は代わり映えしない、昔からある農業機械であった。
そこで同シリーズでは、デザインナーとして、誰もが知るイタリアの自動車メーカー”フェラーリ”でデザインを担当していた”Ken Okuyama”こと奥山清行氏が主宰する” KEN OKUYAMA DESIGN”を抜擢。一般的な「デザイン」という語から想起される「外観」の美しさに留まらず、本来「デザイン」が意図する「優れた設計」を実現した。
シリーズ共通の真紅のボディカラーと随所にエッヂを効かせた外観に眼を奪われ勝ちだが、キャビンに座ってみると分かるのだが、広い視界が確保されているうえ、各種スイッチ・レバーといった操作系の配置は、エルゴノミクス(人間工学)に基づいている。長時間キャビンで過ごす若い農業家が、快適に、そして自分の仕事を誇りに感じられるような、まるで快適な乗用車を運転しているかのように操作できる上質なトラクターに仕上がっている。
美しい外観のなかに投入された最先端のテクノロジーを顕著に現しているのが、高効率無段変速トランスミッション HMTである。クルマのオートマチックのように、ゼロから最高速度まで滑らかに変速できる無段変速HMTは、従来機では選べなかった最適速度を作業やほ場条件に合わせて思いどおりに選択できる。作業効率を高めつつ作業者のストレスを大幅に低減する、最新技術である。
また、車速とエンジン回転を統合制御することにより作業効率の最大化と省エネを実現するe-CONTROL機能の採用のほか、視認性に優れたカラーモニターを装備。さらに早朝や夜間の作業を快適にしてくれる高輝度LEDワークランプの装備といった、作業者に優しい機構を惜しみなく投入している。
そのうえ、燃料を完全燃焼して高出力・低燃費を実現する高出力コモンレールエンジンとすることで、地球環境にも配慮している。ハイブリッドや電気自動車といったエコカーがシェアを拡大する時代である。農業トラクターも当然のように環境への配慮が不可欠な時代なのだ。
「農業女子」という言葉が流行するなど一般社会における農業に対するイメージは変貌しつつあるが、同シリーズは日本農業の未来を変える一つのキッカケになるのではないだろうか。メーカーの想いは申し分ない。さらにフェラーリのデザイナーが設計し、そのうえ最先端のテクノロジーを満載、環境にも配慮している。
「YT3」シリーズは、グッドデザイン賞の審査委員に高く評価されたように、日本農業の未来を支えて行く若い世代にも、きっと高く評価されることだろう。
Text:Reggy Kawashima