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【生分解性マルチの基礎知識】メリットや注意点、ポリマルチとの違いは?

生分解性マルチは、作物収穫後に土壌中にすき込むと、微生物により水と二酸化炭素に分解される資材。一般的なポリマルチ並みの生育収量を確保でき、代替資材として利用できる。改めてその仕組みやメリットについて理解しておこう。

<目次>
1.生分解性マルチってどんなもの?
2.なぜ生分解性マルチが必要なの?
3.生分解性マルチはどうやって分解されるの?
4.通常のポリマルチと生分解性マルチの違いやメリットは?
5.どんな素材でできているの?
6.利用にあたって知っておくことは?
7.生分解性マルチにはどんな種類があるの?
8.生分解性マルチはどんな作物に使えるの?


生分解性マルチって
どんなもの?

作物の収穫後に作物残渣と一緒に畑の土の中に鋤き込むことで、土壌中の微生物の働きにより水と二酸化炭素に分解される農業用マルチです。

機能としては通常のポリマルチと同様に、フィルムの色によって光を通したり遮ったりすることで、雑草抑制や地温調節(温度上昇/抑制)ができ、降雨による肥料成分の土壌下層への流亡抑制や、土の跳ね返りによる病害の防止、土壌水分の蒸散抑制などを可能にします。生分解性マルチは1995年に国内第一号が誕生し、年々改良が加えられてきました。

なぜ生分解性マルチが
必要なの?


農業における廃プラスチックの抑制や、処理コストの課題を解決する資材だからです。

近年、陸上のプラスチックごみによる海洋汚染が国際的な課題となっています。プラスチックは農業⽣産に必要不可欠な生産資材であるものの、これによって新たな汚染を生み出さないために、農林水産省では廃プラスチックの排出抑制と適正処理の推進をしています。また、2021年の改正バーゼル法(正式名称:特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律)の施行により、廃プラスチックの輸出入が規制対象に追加され、農業用ポリマルチは国内での廃棄処理が必須となりました。引き取り業者が減少傾向でそのコストも上昇していることや、プラスチックごみ抑制の目的に叶うことから、処理コストがかからずごみを排出しない生分解性マルチに注目が集まっています。

生分解性マルチは
どうやって分解されるの?


加水分解と土壌の微生物分解酵素の2段階で分解されます。

土壌生分解のメカニズム
第1段階
空気中や土壌中などの水分により加水分解が起きます。生分解性マルチに小さな穴が空いたり、亀裂が生じたりし、徐々に柔軟性や伸縮性も弱まっていきます。

第2段階
作物の収穫後に、第1段階が進んだ生分解性マルチをロータリーなどで小さく切断して圃場に鋤き込むと、土壌中の微生物から分泌される分解酵素の働きにより徐々に分解が進みます。最終的には水と二酸化炭素に分解されます。

通常のポリマルチと生分解性マルチの
違いやメリットは?


土壌の中で分解されてなくなることを活かして、作物の栽培途中や収穫後に行うはぎ取り作業と廃棄物処理が不要になるメリットがあります。

省力面のメリット
マルチのはぎ取りや折りたたみ、廃棄物処理を行う必要がないので、収穫後の作業負担の削減につながり、労働力を生産活動に向けることができる。

環境面のメリット
プラスチックごみを出さないことで環境負荷が抑えられ、海洋汚染を防ぎ、持続可能な農業に貢献する。

経済面のメリット
通常のマルチは回収した後に産業廃棄物として適正に処理しなければならず、そのための費用がかかる。生分解性マルチはこのような処理コストが発生しない。

どんな素材で
できているの?


微生物によって分解される樹脂(プラスチック)を原料にして作られています。

代表的な原料として、PBAT(ポリブチレンアジベート/テフタレート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PLA(ポリ乳酸)、澱粉ポリエステルがあり、いずれの原料も日本バイオプラスチック協会(JBPA)に分解性や安全性を認定されています。JBPAではこれらの原料を使って開発した生分解性マルチの認証制度を設け、認証を受けた製品にはラベルやカタログに生分解性プラマークまたは生分解性バイオプラマークが表記されています。

利用にあたって
知っておくことは?


生分解性マルチはその性質上、受注生産が基本です。注文のタイミングに注意しましょう。

生分解性マルチは長期保管すると、加水分解により強度が低下します。よってメーカーでは作りだめすることができず、受注生産で製造しています。購入するタイミングは有孔などの加工を考慮して、使用する2~3ヶ月前には注文するようにしましょう。メーカーによっては生産時期を限定していることがあるため、注文時期がさらに早い場合があります。また長期保管ができないので、1年以内に使用する数量を注文しましょう。

 

生分解性マルチには
どんな種類があるの?


栽培適応期間やサイズ、色によってさまざまなタイプがあります。

栽培適応期間
マルチ機能を保持する期間が異なる2タイプ
2~3ヶ月タイプ/4~6ヶ月タイプ

サイズ
生分解性マルチの代表的な規格
幅:95cm、135cm、150cm/長さ:200m、400m


黒、透明、銀ネズ、白黒。ポリマルチ同様に、色による機能差があります。

生分解性マルチは
どんな作物に使えるの?


あらゆる作物に使え、ポリマルチを代替します。

生分解性マルチは全国で使用事例があり、代表的な作物に使われています。特に、マルチが根に絡まって外すのに手間のかかるトウモロコシや落花生、外葉をはがす必要のあるハクサイやキャベツなどは、収穫後にそのまま鋤き込めるのは大きなメリットです。

圃場に鋤き込む際は、マルチの残渣が周囲に飛散しないように注意しよう!

 


文:本多祐介

AGRI JOURNAL vol.31(2024年春号)より転載

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