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生産者の取り組み

メンバーの悩みをともに解決へ! 富山県4Hクラブ会長が語る、新たな取り組みへの思い

標高3,000mほどの山岳や、最深部が1,000m以上にもなる湾をもつ富山県は、国内においても、稀有な自然環境を有する地域。そんな富山県の農業には、どのような課題があるのか。県の4Hクラブの会長を務める島澤耕平さんに、現状と今後の計画についてお話いただいた。

メイン画像:「富山県4Hクラブ」の会長・島澤耕平さん
富山県は豊かな自然環境のもと、良質な産物が多く育まれている。

園芸分野は、全国最下位。
“汚名”を打開する動きも

 
富山県東部にある魚津市は、水に恵まれた地域だ。魚津市のシンボルである毛勝三山に降る雨や雪は、良質な水資源として田んぼを潤し、クオリティの高い米を育む。例えば、口当たり、味わいともに秀逸な「うおづ産こしひかり」が、その代表品種として挙げられる。「米づくりに適した環境に恵まれているため、市内の農家の8割ほどが、米をつくっています。法人を構え、大規模な米の生産事業を展開しているケースも多く見受けられますよ」と、島澤さんは話す。
 
生産量、質ともに秀でているのが、魚津市の稲作だ。しかし、それが地域の農業に不本意な側面をもたらしているようだ。「米の消費量が減っていることもあり、近い将来、米の価格が大きく下がるという見方があります。もし、その見方どおり、米の価格が下落したら、魚津市の農家の多くが打撃を受けるでしょう」。
 
島澤さんいわく、そうした可能性を視野に入れ、米以外の作物の栽培をはじめる農家が見受けられるそう。数ある作物のなかでも、近年注目を集めているのが、花きなのだとか。この背景には、県の農業が抱える課題があると話す。
 
「実は、富山県の園芸分野での産出額は、全国最下位なんです。稲作の産出額は高いので、バランスの悪さが目立つのが、県の農業の特徴といえるでしょう。このバランスの悪さをなくすため、富山県の農林水産部も、花きの栽培を奨励しています」。こうした働きかけが実り、新規就農者を中心に、園芸分野に参入する人が増えつつあるという。


島澤さんは、しいたけの生産・販売も手がけている



悩みを共有し、ともに解決できるのが
農業の魅力の一つ

 
「富山県4Hクラブ」には合計200名ほどの農家が加入しているが、実際にクラブの活動に参加している人は、100名にも満たない。より多くのメンバーを活動に呼び込むため、「富山県4Hクラブ」を魅力的なクラブにするのが、島澤さんの目標だ。現在、新たに企画している取り組みがあるという。
 
「実は、農家と他業種の方のマッチングイベントを企画しています。“結婚願望はあるけれど、なかなか出会いがない”と話す農家が多くいるので、きっかけづくりができればと。ちなみに、他業種の方を対象にしたのは、農家同士では、なかなか結婚にいたらないからです。お互いに家業を継がないといけないケースが多々あるので」。
 
農業界では、長年にわたり人手不足が問題視されてきた。こうしたイベントが、人手不足を解消する一助になれば、と島澤さんは続ける。また、こうした取り組みは、中部地方を中心にじわじわと広がっているよう。富山県に隣接する石川県、新潟県の4Hクラブでも、マッチングを目的としたイベントが企画・開催されている。
 
マッチングイベントと同時進行で、富澤さんが企画しているのが、一般企業の協力を得た研修だ。研修のテーマは、“コミュニケーション”だという。
 
「『富山県4Hクラブ』には、農業法人の従業員も多く所属しています。なかには、いわゆる中間管理職の人も含まれていますが、彼らから法人内のコミュニケーションに関する悩みを聞くことがあります。簡潔に説明すると、“若手の従業員と上司の板挟みになってしまう”という悩みですね」。
 
上司や部下という存在がいる環境での、適切なコミュニケーションのノウハウは、農業界ではあまり浸透していない。これが、島澤さんの見解だ。コミュニケーションに悩むメンバーを減らすためにも、一般企業から講師を招き、研修を行う予定だという。
 
メンバーたちの悩みをすくい取り、ともに悩みを解決しようとするのが、島澤さんの特徴。こうした行動の裏づけともいえるような、こんな思いを話してくれた。「普通、同業者同士だったら、ライバル意識が芽生えてしまうものですよね。でも、農業界や4Hクラブでは、そういったことがほとんどないように思います。仲間意識を強くもてるのが、農業の魅力です。今後もお互いに助け合い、一緒に成長していけたらうれしいですね」。

PROFILE

島澤耕平さん

富山県生まれ。水稲としいたけ、小松菜を栽培する農家の次男として育つ。建設業を経て、2013年に就農。就農とほぼ同時に「富山県4Hクラブ」に加入。

DATA

4Hクラブ(農業青年クラブ)


Text:Yoshiko Ogata



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