農業のIT化を進めるために何をすべきか? JAは資金調達とITの活用がカギに
2019/10/30
労働効率を上げるべく、農業のIT化が話題となっている。しかし、現場では部分的な導入ばかりで、一時的にしか効率は上がっていないのが実状だ。根本的な問題点を解決するためにまず着目すべきなのは、実は農業関連施設の老朽化問題なのではないか。中央大学教授の杉浦宣彦氏による、農業のIT化について説く。
課題となるのは
「農業関連施設の老朽化」
「スマート農業」というお題のもと、JAと企業との実験的な提携などの報道を連日のように見かけるようになった。しかし内実を見ると、部分的に先端的な機器を導入するレベルにとどまっているものが多いように見受けられる。
一時的には労働効率は上がるだろうが、確定的な技術がない中での実験的な試みを恒久的なものにするには、時間もお金もかかる。どこまで補助金が続くかに左右される形ならば、不安定要因につながるとすら考えられる。
むしろ、農業の現場で気になるのは、JAで持っているものも含めた、昭和40年代に整備された農業関連施設の老朽化だ。補助金を活用した大がかりなものが多いだけに、再整備には相当な資金が必要だろうし、昨今のIoT活用の流れでIT関連施設の充実化も考える必要がある。そのためには、設備刷新のための資金調達をJAや農業法人単位で行う必要がある。
IoT活用や債権の発行が
JAを変えていくきっかけに
もちろん、JAの場合、信用事業で得られている預金で賄うという方法もあるが、組合員である生産農家やJAの出荷能力、さらには市場への出荷量などの生きたデータをIoTを活用してとりまとめるのはどうだろうか。
そのデータを使って必要なキャッシュフローと返済計画を明らかにしたうえで、必要な資金は債券などを発行して、一般投資家や準組合員などに購入してもらう。IoTを活用することで、そのような資金調達の方法も考えることができる(もちろん、生産情報も各産地からの情報をネット上でアップする必要がある)。
各JAや生産法人は自らの営農事業における収支の把握と戦略的な出荷計画ができていないところが、JAの経営において信用事業だよりになりがちな状況を生み出していると考えられる。
今後、生産地間競争や海外の農産物との競争にさらされる中、ビジネスとしての営農事業はますます厳しい状況にさらされる。その中で、このような債券の発行が、多くの人々から地域の農業を理解を促すとともに、現代的な組合経営のスタイルにJAなどを変えていく一つのきっかけになるのではなかろうか。
PROFILE
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
杉浦宣彦
現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。
AGRI JOURNAL vol.12(2019年夏号)より転載