農業ロボット開発の後押しになるのか? 仮想空間の農業シュミレーションが本格化
2020/02/27
株式会社プラスプラスが、農業シミュレーター「Smart3tene」をリリースした。仮想空間に農園を再現し、その中で機械学習を実施することで、実際のロボットの動きを開発できるサービスだ。仮想のロボットを動作させるシミュレーション環境は、効率的で低予算な開発を実現する。
AIの機械学習環境
仮想空間の農業シミュレーター
岩手県に本社を置く株式会社プラスプラスでは、「スマート農業開発のオープンイノベーション」をコンセプトにした農業シミュレーター「Smart3tene(スマート・ミテネ)」を2020年2⽉5⽇に発表した。
「Smart3tene」は、アルゴリズムを用いて作り上げた仮想空間に、多様な樹木・果実・野菜を大量に生成。全天候型バーチャル農園環境を3DCGで高精細に再現する。
3DCGとは、CG(コンピュータグラフィックス)のうち、コンピュータ上で立体空間の情報を生成し、仮想的な3次元の世界を投影したCGのことである。その世界で仮想ロボットを動かし、摘果や収穫のシミュレーションを行うことで、実際のロボットの動きを開発できる仕組みだ。
データを基に
効率的な開発環境を実現
現実世界での農業用ロボット開発に向けたAIによる機械学習は、莫大なデータ、大量の時間とリソース、膨大な予算が必要だ。農業作業の現場では、作物の育成状況が多岐に渡り、それぞれの適正期間が限られている。
そのため、周辺が日々変化するような動的環境で運用される、ロボット動作に必要なAIによる機械学習用のデータを得ることが難しい。これらは、スマート農業の普及に向けての一つの課題とされてきた。
自動運転車開発の分野においても、同様の問題に直面していたが、最近では仮想空間でのシミュレーションを用いた機械学習が一般化している。仮想空間のシミュレーション環境の構築は、効率的で低予算な開発環境を提供できるためだ。同様に、農業界でのスマート農業の促進にも仮想空間が一役買うことが予想される。
「Smart3tene」の仮想空間中の植物は、実際の植物の観察から経験的に得られた、アルゴリズムによる生成のほか、GANなどの機械学習を活用したテクスチャ、モデル、学習用画像による生成などを視野に入れて開発されている。仮想空間では、季節や天候、時間の経過の設定が可能。膨大な数の育成データをもとに、現実世界では得難い条件を網羅した、高精度の学習を実用的な時間内に行うことができる。
ロボットをキャラクター化
エンターテイメント性を採用
3D空間内では、リアルに表示されたロボットのほか、キャラクター化したロボット映像で、作業状況を確認する機能を備える。若いAIやIoTの技術者にもスマート農業を知ってもらいたいと、あえてイラストを使ったキャラクター調へ擬人化し、エンターテイメント性を付加した。
今後は、リアルな農作業環境の表示機能を活用した、農業環境ビジュアライズソフトウェアとして、実用範囲を広げていく考えだ。VRによる農業体験や、農業従事者への教育活用、品種改良による農地レイアウトの視覚的な検討など、汎用的な農環境シミュレーションシステムとしての応用にも期待が高まる。
DATA
TEXT:竹中唯