酪農大国北海道を支える飼料作り。AI技術が開発され、良質な牧草の生産が期待できる。
2020/02/07
牛の餌の食い込みを増やすために、畑の草種を判別し、適期で収穫するといった作業が乳量の増加に繋がっている。畑ごとの収穫の適期を見極め、良質な飼料の生産につなげる。そんなAI技術が開発される。農業ジャーナリストの窪田新之助氏が説く連載コラム第6回。
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牧草地の衛星データを
AI解析で草種判別
北海道最大の酪農地帯・別海町。総農家戸数748戸のうち乳業牛を飼っているのは708戸にもなる。牛の飼養頭数が約11.1万頭。このうち乳牛は10.3万に及ぶ。その生乳生産量は48万トンと全国の約6%を占める。もちろん市町村別でトップの成績だ。
この成績をさらに伸ばすべく、今年度からある実験を始めている。牧草地の衛星画像を人工知能で解析して、草種の分布を把握する技術を開発する。
牧草地にはさまざまな草が混在し、それぞれで収穫の適期が異なる。適期をずらして刈り取った牧草を餌として与えると、乳牛が満足に食い込まず、乳量を落とす要因になっている。開発する技術で畑ごとの収穫の適期を見極め、良質な飼料の生産につなげる。あわせて草地の更新を促す材料にする。
国内最大の酪農王国を支えるのは自給飼料。別海町含めて道東地方は総じて牧草の自給率が全国平均よりも非常に高い。西春別地区でその牧草を生産する作業を代行するコントラクターが今回の実証試験に参加する(有)ウェストベース。17戸の酪農家がつくり、会員の牧草地1300haを耕している。
同社は西春別TMRセンターを運営し、牧草をサイレージ(発酵飼料)に加工している。収穫した牧草をコンクリート製のバンカーサイロに詰めて、その上に重機が乗っかり、踏圧によって空気を抜く。
それからビニールシートで覆って、重しとしてタイヤを載せて空気の侵入を防ぐ。これで発酵が始まる。発酵によって乳酸や酢酸を発生させ、腐敗菌やタンパク分解菌の活動を抑え、長期の保存を可能にしている。言ってみれば牛用の漬物だ。
道東地方ではサイレージの主原料となるのはイネ科のチモシー。酪農家は草地を更新する際にその種をまく。ただ、実際の牧草地はチモシーで覆われていない。年月を経るに従い、イネ科リードカナリーグラスやイネ科シバムギなどの雑草が畑に侵入し、その分布域を広げるからだ。
地域の一次産業を支えるコンサル会社・別海啓晴社の小椋哲也さんは「道東地域の牧草地はチモシーの割合が5割かそれ以下。大半は雑草畑なんですよ」と語る。
草地の更新は毎年実施すればそれを防げるものの、播種にかかる費用や作業時間との兼ね合いで実際には草地の更新は道内全体で3~4%になっている。25年から33年に一回という割合だ。だからこれら三種類の雑草も「牧草」として利用せざるを得ない。
収穫適期を予測と
生産履歴の追跡
そこで問題になるのは餌としての適性。たとえばリードカナリーグラスはチモシーより生育の速度が早い。チモシーに合わせて収穫すると、繊維質が多く残ってしまい、サイレージにした時に不良発酵しやすくなる。
その餌は「茎がたくさん残っている白菜の漬物と同じ」と小椋さん。そんな餌なので牛が満足に食い込まず、乳量を落とす原因となる。それを防ぐには畑の草種を判別し、収穫の適期を見極めるしかない。
たとえば事前にリードカナリーグラスが多いことを確かめれば、時期を早めて刈るといった対策が取れる。これがウェストベースの関連会社である東日本ユニオンが実施する今回の実証試験の狙いだ。
狙いはもう一つ、生産履歴を追跡することにもある。バンカーサイロは三方をコンクリート壁で囲われた部屋がいくつも並列している。畑で収穫してきた草はそれぞれの部屋に順次詰め込まれていくので、各部屋にあるサイレージはいつ、どの畑で収穫した草が原料であるかは、データを見ればおおむね分かるようになっている。
さらに組合員が飼っている乳牛の生産量に加え、繁殖の実績や疾病の発生などを個体ごとにデータで管理している。一連のデータに異常が発生すれば、サイレージの生産履歴と紐付けて原因を追究できるとみている。
PROFILE
農業ジャーナリスト
窪田新之助
日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人RobiZyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。福岡県生まれ。