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消費者が選びたくなる米・ブランディング成功の秘訣とは? 五ツ星お米マイスターが分析

ブランド米がひしめく日本のお米市場。消費者に響くお米をどう作るか。お米マイスター五つ星資格所有の「小池精米店」店主による独自のブランディング論から他の農作物や加工品にも活かせるアイディアを紹介しよう。

ブランディングによって
「高く売る」ことができる

農業の分野においても、ブランディングという言葉が多用されるようになり久しいが、ブランディングを成功させたいのなら、あらためてその意味を正確に捉えておくことが大切だ。日本各地のブランド米を知り尽くし、その魅力を伝えている、五ツ星お米マイスターの「小池精米店」小池理雄さんは、こう話す。

簡単にいえば、ある商品を別の類似した商品から区別するための一連の要素。商品のデザインやシンボルマーク、商標、名称、キャッチフレーズ、記号など、様々な要素が組み合わせってブランドを形作ります。そのような『ブランド』を消費者に認知させ、市場における自社あるいは商品のポジションを明確化するのが『ブランディング』です。

『○○といえばあの商品』、『このシンボルマークはあのサービス』といった意識をターゲット市場に浸透させるのがブランディングの目的。同じコシヒカリでも、産地、作った人、受賞歴などで全然ちがうものになるわけですから、当然、お米の世界にもブランディングが必要とされているんです」。

日本の米農家を取り巻く環境は、厳しい。安定的な稲作経営をするために、農協を通さず、こだわりに見合った形で「高く売りたい」と考える米農家は少なくない。また、高騰する送料や諸経費をまかなうためには、どうしても高くせざるを得ないという実情もある。日本人にとってお米とは、“普段づかい”の食べ物。だからこそ、「高く売る」ためにはブランディングが必要になってくるのだ。

では、どうブランディングすればいいのだろうか。ブランド米の模範的な成功例について小池さんは、「つや姫」(山形県)「ゆめぴりか」(北海道)を挙げる。

「どちらも消費者にとって『間違いのないお米』というイメージができています。成功の秘訣は、主に次の5つ。まず、食味の管理がしっかりできていること。食味の検査をした上で、たんぱくの値、整粒歩合などの厳格な品質管理を徹底しています。

次に、県レベルで『売る』ための努力をし、盛り上げるための仕掛けづくりを継続していること。3つ目は、僕らのような米屋のファンが多いこと。4つ目は、宣伝にしっかりお金をかけていること。そして、最後が既存のお米との違いが明確であることです。『つや姫』は統一的な米袋で販売されていますし、『ゆめぴりか』には認定マークがつけられています」。

その一方、現実には、生産規模や宣伝費用が限定的というケースも多いだろう。「たくさんの宣伝費をかけなくてもブランディングする方法はある」と小池さんは言う。

消費者がどういう基準でお米を選ぶのかを知り、フックをできるだけたくさん用意してあげることです。『○○といえば、□□さんのお米』というところまで定義付けできたら、ブランディングは成功。自分たちのお米の特徴を知ることからスタートしてみましょう」。

CHECK! 『○○といえば、□□さんの米』の作り方

自分たちのお米の特徴は?

どれを強調するか?

どのように強調するか?

どのように売るか?

ブランディング成功のひとつの指標は、ターゲットに「○○といえば、□□さんのお米」と認知してもらうこと。こう定義づけされるようになれば、消費者の意識にも「間違いのないお米」としてイメージが定着する。

「□□さんのお米」を完成させるためには、まず、米の特徴について棚卸しをすることから。自分の長所は自覚しづらいのと同様、自ら生産する作物の良さも、意外と認識できていないもの。詳細に棚卸しをして、特徴を洗いざらい出した上で、次のステップに進んでいくといいだろう。

消費者がお米を選ぶ
基準とは?

● おいしいのは当たり前
日本のお米のレベルはとても高い。そのため、どのお米も一般消費者にとっては「おいしい」。もちろん、食味の違いや差はあれど、それは一定の基準を超えた高いレベルでの比較によるもの。一般消費者にはその差がわかりづらいことも多いため、「おいしさ」での差別化は正直難しい

● おいしい以外でどれだけの要素があるのか
「おいしい」「認証の有無」で差別化ができないのならどうすればいいのか。数多ある選択肢から選んでもらうためには、消費者の心のフックに引っかかるような要素をたくさん用意しておくことが大切。要素を増やすこととはつまり、お米のスペックを高めていくということ。自分のお米の特徴を踏まえながら、PRしていきたい。

● 有機JASや特別栽培の認証の有無は「絶対」ではない
生産方法を重視し、無農薬やオーガニックであることを購入基準にするマーケットももちろんあるが、多くの一般消費者にとって有機JASや特別栽培の認証は、お米を購入する際のマスト条件ではない。認証は、1つの売りにはなるかもしれないが、強力な差別化につながるかというとそうでもないのが現実なのだ。

CHECK!
消費者に響く12のスペック

① 農薬の使用状況
強力な差別化にはつながらないかもしれないが、JAS有機や特別栽培の認証は、1つの売りとしてはもちろん効果的。無農薬のお米を求める消費者は、生産方法は重視しても、なぜか品種にはこだわらないという傾向も。

② 生産者の顔
言葉通り、生産者の顔写真を公開すればいいということではなく、ポリシーを伝えるということ。どういうスタンスで、どういう想いで作っているのか。生産者のバックボーンを伝えることができれば、消費者の親近感も倍増する。

③ 栽培における一工夫
おいしさを連想させるような栽培へのこだわりならなお効果的。例えば、「肥料に宮古島の“雪塩”と“ハチミツ”を使っている」「茎の養分を実まで行き渡せるために遅狩りを徹底」「地元に湧き出す温泉を芽出しに使用している」など。

④ 産地の様子
その産地の特徴がどう稲作に活かされているのか。背景を知りたい消費者も多い。例えば、「水芭蕉が自生するほどの美しい水で栽培」、「海風を受ける土地で栽培。風が田んぼをかき回すため、熱がこもりにくく、病気になりにくい」、「マグネシウムとカリウムが豊富な蛇紋岩土壌」など。

⑤ 環境への配慮
人や社会、環境や地球に優しく配慮しているかどうか。消費者が購入というアクションをすることで、その産地の環境保全などにフィードバックされるという仕組みが伝われば、1つの魅力になる。例は、「朱鷺と暮らす郷米」(新潟県)、「魚のゆりかご水田米」(滋賀県)など。

⑥ 小分け
かつては20kgの米を買う人が多かったが、現在は5kg、はたまた2kg単位での購入を希望する消費者も多い。小分けになっていることで、鮮度や保存性をPRできる。また、少量ずつ多品種を食べ比べられるというコンセプトの商品も、差別化につながる。

⑦ パッケージ
目を引くデザインや色が施されたパッケージは、「□□さんのお米」と認識されやすい。例えば、米袋のかわいいくまのイラストが目印の「森のくまさん」(熊本県)。子連れで買い物をする消費者は、かわいい絵に子供が興味を示し、絵だけで消費行動に繋がるというケースも。

⑧ 品種の物語
例えば、巨大胚芽米の「カミアカリ」(静岡県)は、コシヒカリの田んぼの中で発見された突然変異種。通常の玄米の3倍~4倍もの大きさの胚芽を持つ特殊なお米で、日本で数人しか作っていない。こうした品種のストーリーは、消費者の関心や購買意欲をかきたてるものになる。

⑨ どのような味なのか
お米の味を聞くと、よく返ってくるのが「甘くて粘りがある」という答え。今どきどこの米も同じ。なにがどう甘いのか、どう粘るのかまできっちり表現できなければ差別化にはつながらない。甘い、粘る、おいしいなどNGワードを設定しつつ、自分のお米の味を説明できるようにしたい。

⑩ どのような料理に合うのか
例えば、お米とカレー、お米と鍋など。お米との相性が良く、消費者の関心を惹く料理をピックアップ。「○○との相性」とその理由まで、棚卸しできれば完璧だ。また、「お米と水」という切り口もキャッチー。水道水で炊いた時、どのような違いがあるのかまで明確化できると良い。

⑪ 玄米・分づき
米米農家のなかには、一般消費者が「玄米を食べる」という選択肢を持っていることに気づいていない人もまだ多い。主に女性に人気の玄米だが、その配偶者や子供は玄米が苦手というケースも。栄養価の高い玄米と白米の間をとった5分づき、7分づきのニーズは少なからずある。

⑫ 感情移入
人間は理屈よりも感情によって動く。例えば、自分の出身県の米を選ぶ、宮沢賢治が好きだから岩手県の米を選ぶという消費者もいる。感情に訴え、ファンにもってもらうことができたら、リピーターになってもらえる確率も高くなる。

教えてくれた人

小池精米店

小池理雄さん


1971年原宿生まれ。出版社での編集者などを経て、原宿・表参道で唯一のお米屋さん「小池精米店」を継ぐ。有名な米どころからまだ知られていない地方の名米まで、五ツ星お米マイスターとして日本各地のお米の魅力を伝える。テレビやラジオ、新聞等のメディアに多数出演。


文:曽田夕紀子(株式会社ミゲル)

AGRI JOURNAL vol.19(2021年春号)より転載

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