世界初の量産型農業用無人車が登場! XAG×バイエル『R150』散布と運搬を自動化
2021/09/01
バイエルクロップサイエンスが、XAGの世界初量産型農業用無人車『R150』の販売を開始した。一体どんな機械で、実際に農業の現場でどのように使うのだろうか?
農業用無人車
『R150』とは?
農業ロボット元年と呼ばれた2018年から3年が経った。自動運転が可能な製品ジャンルはトラクターからコンバイン・田植機へ、さらには茶摘み機やアスパラ収穫機、草刈機などにも広がっている。一方で、展示会などでは『多用途に使える無人車』を目にする機会が増えた。自動走行する車体に作業機を乗せる、という考え方だ。
今回、バイエルクロップサイエンスが発売を発表した『R150』は、この無人車タイプだ。世界初と銘打ったのは「量産型」である、ということ。開発・製造はXAGである。ドローンメーカーとして知られるXAGの販売網はグローバルだ。カナダ、メキシコ、イタリア、ニュージーランドのほか、東南アジアや南米、アフリカにもネットワークが広がっている。この販売網を通すことで拡販=量産を目指しているのだろう。
『R150』は、RTK制御により、誰でも簡単、安全、正確に、運行(運搬)と散布を実現する。水稲、野菜、果樹の農薬・肥料散布に加え、資材や水、収穫物の運搬など、使用場面は多岐にわたり期待されるが、現在『R150』が有する機能を見る限り、園芸作物の生産者、特に果樹生産者にメリットがありそうだ。
大きさは全長×全幅×全高=1515×1090×1105mm。散布システム搭載時の重量は200kg。コンパクトという程ではないが、日本の圃場でも持て余さない程度のサイズ感だ。この車体に、XAG製ドローンと共用の可搬式バッテリーとモーター2つを搭載しており、四輪駆動を採用している。
分かりやすく言えば、車体は4WDの電気自動車(EV)である。ドローンと共用できる可搬式バッテリーというのがミソで、バッテリーの機能性と耐久性は既に確認済であるうえ、可搬式バッテリーは充電場所を選ばないから扱いやすさに優れている。車体本体は耐久性に優れており、IP67レベルの防水防塵を有している。リリースには、洗浄やメンテナンスも簡単である、と明記されている。
四輪駆動だから
走行性能が高い
EVだから低速トルクに優れているはずであり、それと2モーターによる4WDとの組み合わせで、高い走破性を誇ることは容易に想像できる。日本での導入予定は不明だが、XAG本社のウェブサイトを見る限り、キャタピラ仕様への組み換えも可能なようだ。これらをもってバイエルクロップサイエンスは「平地はもちろん山間部の圃場や果樹園等の複雑な地形でも走行できる」とリリースに記載した。走行性能そのものは、かなり高いのではないだろうか。
RTK採用により
正確な位置情報を確保
『R150』は測位にRTKを採用している。RTKとはReal Time Kinematic(リアルタイムキネマティック)の頭文字をとった測位方法のこと。GPSなど従来の測位方法では、1つの受信機で4つ以上のGPSやGNSSの衛星から信号を受信して、自機の位置を計算する。
ところがRTKでは、固定局と移動局という2つの受信機で4つ以上の衛星から信号を受信する。2つの受信機の情報にはズレが生じるが、これを補正してより高精度な位置情報を得ることができる。だからRTKでは誤差を数cm程度に抑えることができる。位置情報が正確であるということは、自動操縦時の安全性と作業精度が高い、というメリットに繋がる。
散布には
ジェットスプレーヤー採用
『R150』が自動操縦の基礎体力となる「高い走行性能」と「正確な位置情報」とを有していることが分かった。ここからは機能について見て行こう。「散布」と「運搬」の能力だ。
リリースによると、『R150』は散布モードでは100Lタンクを積載して、高速気流スプレーシステム(ジェットスプレーヤー)により農薬の完全自動散布を実現した。噴射は左右に最大290度、上下に最大200度まで回転して、最大散布幅は12メートル、最大作業効率は5.3ha/hにも及ぶ。作物場面では、特に果樹や園芸作物において、正確で省力的な散布作業が期待される。
また、完全無人化の実現により、作業負担の低減と作業者への曝露を大幅に軽減することが期待されている。XAGによると、粒剤散布、草刈りにも対応する計画があるという。
農業生産者から
高い関心を集める
『R150』の日本での販売はXAG JAPAN社が手掛ける。バイエルクロップサイエンスはXAG JAPAN社の代理店であるようで、ユーザーへの販売、導入時の技術指導、アフターサポートなどは、バイエルクロップサイエンスのパートナーである全国17社の販売代理店が担う。
そんな販売代理店の一つである山梨県甲府市に本社を置く(株)アセラに、『R150』の現状を聞いた。アセラは2021年4月上旬、発売前の『R150』を用いた研修会を開催している。
「研修会はバイエルクロップサイエンスと協力して開催したもので、県内の農業関係者に声を掛けて、新型コロナ感染拡大に配慮して、小規模で実施しました。当社にとって初めての実機は7月7日に到着したばかりなので、走行性能や散布能力、運搬能力の把握はこれから、といったところです。
一方で、農業生産者さんの関心は非常に高いですね。既に数件の問い合わせをいただいています。これは山梨=果樹という立地も関係しているかも知れません。ぶどうのハウス栽培はご存知かと思いますが、ハウス内でも薬剤散布を行います。通常は散布機で行いますが、『R150』を使うことで無人やコントローラーで出来れば、省力化を実現したり、農薬曝露を減らせるのでは……と興味を持たれているのです。自動だけでなく、コントローラーで動かせる、というのも安心感に繋がっているのかも知れません。
操作性については、事前の設定は難しいかな、と心配していたのですが、ドローンの操縦に良く似ています。ドローンを飛ばせる程度の技能があって、スマホやタブレットを普通に使っている方であれば、充分に使いこなすことができそうです」(アセラ農薬部 瀬田さん)
実際に日本の圃場を走行し薬剤散布している様子《アセラのYouTubeチャンネル》
150kgまでの荷物を
運搬できる
『R150』が有するもう一つの機能が「運搬」である。運搬アタッチメントを取り付けることで、自動で動く台車になる。最大積載能力は150kgと、なかなかの力持ちだ。収穫物や資材、水など、散布用の農薬以外も自動で運搬することも可能だ。
実際の操作は散布モードと同様で、走行ルート等をスマホやタブレットで事前に設定しておくだけ。バイエルクロップサイエンスによると、オペレーターを追尾させることも可能である、とのこと。これも便利な機能だ。
価格は250万円程度か?
バイエルクロップサイエンスは明言しなかったが、『R150』は将来的に機能が追加されることが期待される。現在は散布と運搬のみだが、例えば下草刈りやセンシングといった機能が追加されることで、その価値はググっと高まるに違いない。
気になるのは価格だろう。アセラによると、正確には決めていないが、本体+バッテリー+充電器+測量機材+散布ノズル+タンクを含めて250万円程度を予定している、とのこと。助成金等を利用すれば、充分に手が届く範囲ではないだろうか? 実際の価格については販売代理店により異なるので、ご興味を持たれた方はぜひ、バイエルクロップサイエンスの販売代理店にコンタクトして欲しい。
問い合わせ
文:川島礼二郎