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生産者の取組み

農業で地域活性化〜山椒農家らの挑戦、地元産業は世界で通用するのか?

3月10日は「農山漁村女性の日」。女性の活躍で地域は明るく元気になる! 女性社員を起用した開発チームでヒット商品を次々と発表した有限会社飛騨山椒。地元高齢者の協力を得て収量を安定させ、輸出も開始。成功の鍵は一体何だったのか? これは北アルプスの麓、奥飛騨の村人たちの地域活性化 成功の物語だ。

女性と高齢者の力で
飛騨山椒を世界ブランドにしたい

2017年、シラ国際外食見本市の自社ブースに立っていた内藤一彦(ないとう かずひこ)氏は、ゴクリと唾を飲み込んだ。有限会社飛騨山椒の代表取締役である彼は、地元産業である「山椒」の海外市場での販路拡大を目指し、商談会に出展していた。

「Ça sent très bon!(とても良い香りだ!)」

サンプルを手にしたフランス人が、その強い香りに唸った。

それもそのはず、この山椒は、地域に自生する香りの強い個体を選抜し、接ぎ木によって増殖されてきた独自の優良系統なのだ。その歴史は古く、江戸時代に飛騨郡代が徳川将軍に献上した記録が残っている。

ほっと胸をなでおろした内藤氏は、飛騨の深山に思いを馳せた。

昔、飛騨の山椒は、そのほとんどが原料として国内へ供給されているだけだった。

しかしある時、
『いつまでも原料の供給地というだけではいられない。名産として世の中に広めていくには自立しかない!』
と、6次産業化に立ち上がったのが、有限会社飛騨山椒だ。

産地では高齢化や過疎化が進んでいるが、”そこに住む、その地域のその人達の手で”、飛騨山椒は大きく成長してきた。後継の内藤氏の手で、伝統を守りつつも進化を遂げてきた背景には、「女性」と「高齢者」の活躍があったという。

女性開発チームで
ユーザーニーズを掘り起こす

「過疎と高齢化が進むこの地で “地域おこし” を図るには、山椒しかない!……そう思ったんです」。
地元建設会社の専務だった内藤氏は、有限会社飛騨山椒を先代から受け継いだ。異業種から一念発起した当時を振り返る。

元勤務先の代表も『江戸時代から続く地域の名産を守りたい』と、応援してくれた。子供時代、夏休みに “山椒もり(飛騨弁で “摘み取り”の意 )” が日課だったことも、彼の背を押した。

継承後、積極的に女性を採用し、開発を任せた。3名から6名に増え、賑やかさを増した女性開発チームの中には内藤の妻の姿も。

「山椒は食品だし、開発過程では、調理など女性に適している仕事が多いんですよ。それに何より、エンドユーザーは圧倒的に女性が多い」。

ヒット商品を生み出せた理由を訊ねると、
「みんなが真剣に “良い商品を作ろう” という気持ちでやってくれた、そのおかげです」と話す。

「先日もバス旅行に行ってね、そういった楽しみもあるんですよ」。
家族のような和気あいあいとした社内の雰囲気が、口ぶりから伝わってくる。

女性が主役! 商品開発会議の様子。

2012年に農林水産省の「6次産業化対策事業」の認定を受けた新商品「ミル付き山椒」「山椒醤油」「実山椒の佃煮」は、順調に売上を伸ばし、2016年には200万円を突破。社内は喜びに沸いた。

生産・収穫を支える
地元高齢者たち

飛騨山椒を支えているのは、女性社員だけではない。知名度が上がり、商品の出荷量が増えると、同社だけでは栽培・収穫が賄いきれなくなった。そこで、地元高齢者の方に協力してもらい、安定した収量を確保した。

山の斜面にある畑では、土に石灰を加える他はほとんど農薬を使わないという。葉の付け根にある鋭い棘をよけながら、ひとつひとつ爪の先で摘み取る。3メートルを越す木に”はしご”を掛けての作業は、かなりの重労働だ。

手作業で山椒の実を摘み取る、地元高齢者の方々。

収穫された実は同社に持ち込まれ、いったん陰干しをし、天日干しに。すると三方に皮が割れる。それを手で揉んで種と皮に分け、皮だけを杵と石臼で粉にし、ふるいで選別し、ようやく「山椒粉」はできあがる。

「乾燥機を使うと色はきれいに仕上がるが、飛騨山椒の持つ “独特の香り” は飛んでしまいます」。
天日干しのこのひと手間が、香り高い「飛騨・高原山椒」を生み出しているのだ。

継承から10年で、山椒農家は45軒から60軒へと増加。収穫量は6.3トン(2012年)から7.9トン(2016年)へと、4年間で25%増加した。

なぜ農家が増えたのか訊くと、1人立ち上がってくれた方が、知り合いに声をかけて広めてくれたのだそう。”地域産業を守りたい”という想いは同じだったのかもしれない。

農家の方は『依頼され、頼りにされると “張り合いがある” 』と、決して楽ではない畑の管理や収穫を、意気揚々とやっている。

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