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生産者の取組み

「生活の質が上がれば仕事の質も上がる」海外での生活を経た4H北海道会長が語る、アイヌ文化とイナキビの魅力

広大な農地を有し、冷涼な気候に恵まれた北海道は、農業に適した地域だ。他所に比べて若手農家の数も圧倒的に多く、「北海道アグリネットワーク」には、現在およそ1800人もの会員が所属している。この“大所帯”のリーダーを務めるのは、平取町でトマトと水稲の生産に携わる、24歳の水野弘樹さん。内に熱い思いを秘めた、期待の若手農家だ。

メイン画像:「北海道アグリネットワーク」の会長・水野弘樹さん。

4Hクラブでの出会いと活動が
農業への姿勢が変わるきっかけに

日高地方の西端に位置する平取町にて、代々トマトと水稲の農家を営んできた水野さん一家。

長男として生まれた水野弘樹さんは、中学卒業後、”農家の息子だから”という理由のもと、農業高校に進学したそう。しかし、高校で素晴らしい教師に恵まれ、やがて本気で農家を目指すようになったと話す。

その後の進路として農業専門の短大への進学を選んだものの、短大卒業後はすぐに就農せず、単身ニュージーランドへ。

「9ヶ月間ほど、ニュージーランドでワーキングホリデーをしながら暮らしていました。もともと旅が好きだったこともありますが、就農前に広い世界を見てみたいと思ったんです」。

刺激的で充実したステイを終えたのち、帰国。その後、実家の農場で働きはじめたが、半年ほどで仕事に嫌気がさしてしまう。

「家族経営で農業をしていると、家族以外の人に会う機会がほとんどありません。どんどん視野と世界が狭まってしまうことに、不安と焦りを感じていました」。

そんなとき、知人に勧められて参加したのが、4Hクラブ。所属する若手農家たちとの交流が、仕事への意識が変わるきっかけになったという。

「同年代の農家が頑張っている姿が、いい刺激になりましたね。また、会議や飲み会などで情報交換をするうち、新しい農法に興味を抱くようになりました」。

例えば、トマトの病気の代表格である「灰色かび病」も、新しい手法をもって減らすことに成功したそう。

「それまでは1週間に1回、まとめて追肥をしていましたが、毎日少しずつ、追肥をするやり方に変えました。以降、トマトの根にストレスがかかりづらくなったようで、『灰色かび病』が減り、収穫量が増えましたね。こうしたより良い農法も、4Hクラブのメンバーとの交流がなければ知り得なかったことです」



イナキビの生産・販売を通じて
アイヌ文化と農業の魅力を発信

平取町は、かつてアイヌ文化が息づいていた地域。水野さんによると、今でも継承されているアイヌ文化があるという。その一つが、「イナキビ」という雑穀の栽培だ。

「イナキビは、アイヌの人たちの伝統食です。祭りや葬式の際は、団子にして供えていたと聞きました。『びらとり4Hクラブ』では、昨夏よりイナキビをブランド化して生産、販売しています」。

イナキビは、ビタミンやミネラル、食物繊維などを豊富に含んだ、栄養価の高い食材。往年は、平取町をはじめとする地域で親しまれていたこともあり、販売開始後、大きな反響があったのだとか。

「まず、新聞など複数のメディアから取材依頼がありました。その後、一般の消費者の方から、たびたび問い合わせの連絡を受けるようになりましたね」。

また、イナキビの歴史と魅力を伝えるイベントなどをつうじ、地域の人々と交流する機会が増えたという。

さらには現在、メーカーとコラボし、イナキビを使ったお菓子を開発中。すでに試作品が完成しているそうで、今後の展開が期待される。

「北海道4Hクラブ」の会長として、さまざまな地域における農業の現状を見聞きしている水野さん。農業界が抱える大きな課題として、人手不足があると話す。

「繁忙期を迎える前に人手を増やそうと、アルバイトの募集告知を出しても、ほとんど応募がないという話をよく耳にします。”農業=キツい仕事”というイメージが根強く残っているのが、人が集まらない理由なのだと思いますが……」。

世間では、農家の魅力や仕事内容がほとんど知られておらず、一般の人々と農家の間に壁ができてしまっているのは、と水野さんは分析する。人手不足を解消するには、まずは農家の仕事内容を広く伝えるのが大切と考え、SNSなどを活用した情報発信を行っているという。



また、イナキビの生産およびPRも、農業に興味をもってもらうための活動の一環と捉えているそう。

仕事と生活の質を上げる取り組みにも意欲的なのが、水野さんの特徴。各地域の役員が集う会議はスカイプで行うなど、メンバーの負担を減らす方法を採用している。

“新しい農業”を築くうえで、水野さんのような若手農家の存在は、必須といえそうだ。

PROFILE

水野弘樹さん

1994年北海道生まれ。トマトと水稲を栽培する農家の長男として生まれ、2016年に就農。就農の約半年後に「びらとり4Hクラブ」に加入し、2018年4月に「北海道アグリネットワーク」の役員に。2019年1月、同クラブの会長に就任。

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