元DJ世界チャンピオンが、米の食味コンテストで最高金賞を受賞 付加価値のある米作りに挑戦
2022/11/07
日本随一の米所である新潟県南魚沼市で、元DJ世界チャンピオンという異色の経歴を持った農業生産者が、高付加価値米を直販することで大きな成功を収めている。紙マルチ田植機を用いて栽培する、農薬を使わない高付加価値米とは?
南魚沼市の農家の10代目
DJから本気で農業の道へ
魚沼産コシヒカリ……言わずと知れた、美味しい米の代名詞だ。しかし、同じ魚沼産コシヒカリであっても、地域や栽培方法により米の味は異なる。魚沼のなかでも、特に美味しい米が穫れると言われる地域が南魚沼だ。
新潟県南部の魚沼盆地に位置する南魚沼市は、東は越後三山の一つである八海山などが形づくる越後山脈に、西は魚沼丘陵に、そして南は日本百名山に名を連ねる谷川岳をはじめとする名峰に囲まれている。盆地平野部の標高は約200mだが、山に向かうにつれて高くなり、1000mを越える地区もある。そのため大規模区画は少なく、日本中のどこでも見られるような、小ぢんまりした水田が広がっている。
『こまがた農園』の水田は、八海山をはじめとする越後三山に囲まれた山間部に位置しているため昼夜の寒暖差が大きい。また谷川岳を水源とする魚野川のミネラル豊富な雪解け水の効果もあり、上品な香りと甘さが際立つ美味しい米が穫れる。
そんな南魚沼市で、高付加価値米に活路を見出し、挑戦を続けている農業生産者がいる。国内最高峰の米の食味コンテスト『お米日本一コンテストinしずおか』第16回で入賞を、第17回では見事に最高金賞を受賞した『こまがた農園』の駒形宏伸さん(42歳)だ。
「私は駒形家のちょうど10代目にあたります。私の先祖が当地で農業を始めたのは江戸時代、安永6年(1777年)のことですから、もう240年以上も前になります」。
学生時代は陸上競技(110mハードル走)で鳴らしたが、大学時代に出会ったDJやターンテーブルの格好良さに衝撃を受けDJの道へ。父の米作りを手伝いつつ技術を磨き、2006年には世界最大のDJ大会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2006』で優勝して世界チャンピオンにもなった。そんな駒形さんだが、子供が生まれたことをきっかけに食への関心を持つようになり、家族に安心安全な米を食べさせたいという思いから、本気で農業に取り組むようになった。
自宅にはDJルームがあり現在でもプレイしたり後進を指導している。
2006年に世界最大のDJ大会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2006』で優勝した際に贈られた盾。
「正直に言って、最初は農業をなめていました。コンテストがあると聞いて出品してみましたが、箸にも棒にも掛かりませんでした。南魚沼の米なら美味しいに違いない、という思い違いがあったのです」。
自家製肥料+紙マルチ田植機で
高付加価値米作りに挑む
この衝撃の落選を機に、駒形さんは人が変わったように米作りに没頭した。生来の負けず嫌いな性格が幸いしたのだろう。日本各地の篤農家に米作りの秘訣を聞いて回った、というから、その熱の入れようが想像できる。特に、駒形さんが師と仰ぐ、同じ南魚沼の『関農園』の関智晴さんのアドバイスが有効だったのだとか。こうした苦労の末に取り組み始めたのが、自家製のぼかし肥料である。
「米の味を決めるのは肥料です。もちろん水や土、気温や寒暖差、水管理といった様々な要素が関係しますが、美味しい米を作ろうと考えたら肥料にこだわる、というのが、私が出した結論です」。
精米工程で出た米ぬかに、魚粕、蟹ガラ、昆布などを混ぜて1年以上寝かして自家で生産している『こまがた農園』のぼかし肥料。
この自家製のぼかし肥料と、安全安心のために栽培期間中に農薬・化学肥料を使用しない栽培や、農薬・化学肥料を産地基準よりも少なくする特別栽培方法により、『こまがた農園』は上述のような美味しい、そして安心安全な米を作れるようになった。
『こまがた農園』が管理する水田は14ha。このうち1割では農薬・化学肥料を使わずに栽培している。これが『こまがた農園』の看板商品となっている『こまがた家のお米 農薬・化学肥料不使用栽培米』であり、5㎏1万400円と極めて高価だが、これが実に良く売れるという。
そこで駒形さんは、農薬・化学肥料を使わない米の面積を増やすべく、新たな挑戦を始めた。それが三菱農業機械の独自技術が投入された紙マルチ田植機の導入だ。紙マルチ田植機とは、田植えと同時に田面に専用の再生紙を敷き詰めることで、田面への日光の通過を遮断して田植えから約40~50日間の間、雑草の生長を抑制する、無農薬栽培に貢献するために開発された三菱農業機械独自の田植機である。
「農薬を使わない、あるいは極力使わない栽培方法は、雑草との戦いです。乗用タイプの草刈機を試してみたこともありますが、それでは除草はできても茎数を削ってしまうことが分かりました。だからと言って、真夏に広い面積を手作業で除草するのは本当に大変です。実は、ウチはスイカも栽培しているので、夏はそちらに人も労力も掛かり切りになります。ですので、どうしても雑草対策を効率化しなくてはならなかったのです。どうしようかと悩んでいた昨春、友人でもある関智晴さんが『紙マルチ田植機』を新車に買い替えることを聞きつけて、使用していた機械を中古で譲ってもらいました」。
駒形さんが紙マルチ田植機で植えたばかりの苗。
取材日は、ちょうど駒形さんは田植作業を行っていたが「今年で2年目なので、もう紙マルチの補充作業にも慣れました。紙マルチ田植機は、上手く張ることができれば雑草を確実に抑えることができます。今年は昨年使った紙マルチと同じものと、より厚手の紙のものとを比較しています。より効果的な方法を見つけたいです」と意欲的だ。