多品目栽培で薬剤抵抗性が高まる。野菜王国 茨城県鉾田市のIPM実証をリポート

茨城県鉾田市は、農業産出額が10年連続全国トップの野菜王国だ。多品目の周年栽培によって病害虫の発生密度が高い地域でもある。そんな一大産地がイチゴのIPM導入に向けて舵を切った。その理由と成果をリポートする。

メイン画像:2025年10月に開催された現地講習会。(茨城県鉾田市)

 

IPM(Integrated Pest Management:総合的病害虫・雑草管理)
IPM(Integrated Pest Management:総合的病害虫・雑草管理)は、化学農薬だけに頼らず、耕種的・物理的・生物的防除を組み合わせ、環境負荷を低減しながら安全な農産物を安定生産する手法です。農薬の過剰使用を防ぎ、経済的な損害を最小限に抑えることを目的としています。
<IPMの4つの柱>
耕種的防除:抵抗性品種の導入、輪作、適切な施肥
化学的防除:天敵への影響が少ない農薬を選択的・最小限に使用
物理的防除:防虫ネット、粘着トラップ、熱処理、光による行動抑制
生物的防除:天敵昆虫や微生物農薬の利用

 

県とJAが連携して
イチゴのIPM実証を開始


茨城県のオリジナルイチゴ「いばらキッス」。

茨城県の海沿いにある鉾田市。毎年2月はイチゴ収獲の最盛期だ。鉾田市はイチゴの産出額が栃木県真岡市に次いで全国第2位。2020年の農林業センサスによると栽培面積138ha、生産者193戸の規模を誇る。主な品種は、とちおとめ、やよいひめ、いばらキッスの3品種である。


イチゴの産出額が全国第2位の鉾田市。

鉾田市では以前からハダニ類の被害が問題となっており、2010年ころから天敵などを使ったIPMを導入する動きが広がった

これまでの取り組みについて、茨城県鹿行農林事務所経営・普及部門の假屋哲朗さんは、「2015年ころには、天敵によるハダニ類の防除が管内の6割ほどまで広がりました。しかし、近年はハダニ類に加えアザミウマ類の発生や被害が深刻化しています。アザミウマ類に効果が高い殺虫剤は、ハダニ類の天敵に影響があることが多いため、アザミウマ類の薬剤防除を優先して天敵を使わない農家が増えてきたのが昨今の状況です」と説明する。

さらに鉾田市では、イチゴやメロン、ミニトマト、ホウレンソウなどのさまざまな作物が栽培されていて、病害虫の発生が多く、化学農薬の使用頻度が比較的高いことから、アザミウマ類の殺虫剤に対する感受性が低下し、被害が拡大している。そこで、茨城県鹿行農林事務所と、JAほこた、生産農家が連携して、2024年9月から天敵や防虫ネットなどを活用したイチゴのIPM実証がスタートした
 

パイプハウスで室温上昇
遮熱シートを効果的に導入


防虫ネット、遮熱シートを展張した実証圃

IPM実証は、JAほこた苺部会研究部の協力を得て実施している。研究部の部長である根崎拓哉さん(44歳)のハウスを実証圃にして、資材メーカーの協力を得ながら、天敵、防虫ネット、遮熱シート、循環扇などの効果を検証した。1年目の2024年度の目標は「アザミウマ類の侵入を防ぐこと」

IPM実証を主導した茨城県鹿行農林事務所の假屋さんは、「ハウス外からのアザミウマの侵入を防ぐため、定植前から0.6mm目合いの防虫ネットを展張しました。アザミウマが認識できない『赤色』のネットにすることで侵入の軽減を図りました。

鉾田市周辺では軒の高くないパイプハウスが一般的なので、大型の鉄骨ハウスに比べて室温が高くなりやすい傾向があります。その対策としてハウスの天部に遮熱シートを展張したり、循環扇をつけたりしてハウス内の気温や地温を下げる工夫をしました」と話す。


IPM実証に協力した根崎拓哉さん。

実証圃を提供した根崎さんは、JAほこた苺部会研究部の部長を務めている。かつてはメロンとトルコギキョウを手がけていたが、2006年からイチゴに切り替えた。現在は80aのパイプハウスでやよいひめなどの品種を土耕栽培している。

根崎さんは2013年にIPMに取り組み始めた。当初は、ハダニ類の天敵を導入したものの、被害を抑えきれず、結局は薬剤防除に頼っていた。2019年からは定植前の苗に炭酸ガス処理を導入し、ハダニ類の防除については安定的な成果が得られるようになったという。しかし、その後アザミウマ類の被害が拡大したことから、茨城県やJAと連携してIPM実証に取り組むことになった。

実証圃のハウスでは、開口部に防虫ネットを展張し、アザミウマ類の侵入防止を図った

「アザミウマは風に乗ってハウス内に飛び込んでくるので、定植前のできるだけ早い時期に防虫ネットを展張するのが良いと思います。パイプハウスのなかは、防虫ネットで熱気がこもるので、天井外側に遮熱シートを同時に展張しました。日差しを取り入れながら気温の上昇を抑えてくれるので、快適に作業ができました」と根崎さんは頬を緩める。
 

アザミウマ類の防除
天敵と薬剤を効果的に活用


アザミウマ類に寄生されたいちごの花。

アザミウマ類防除のもう1つのポイントは、天敵と薬剤を効果的に活用すること

假屋さんは、「天敵を放飼する前に、アザミウマ防除の効果が高い薬剤を散布して密度を減らすことが重要です。年内に天敵を2回放飼してアザミウマの発生を抑えることで、効果が高い薬剤を温存することができます。翌年2月頃に天敵をさらに放飼し、春先の3~4月に温存しておいた薬剤を防除することで、アザミウマを効果的に抑えることができると考えています」と解説する。

根崎さんは実証圃において、1年目の2024年度はリモニカスカブリダニ(5万頭×1回)とククメリスカブリダニ(36万頭×2回)の2種を放飼した。2年目の2025年度はククメリスカブリダニのみを30万頭×2回と20万頭×4回の2つの方法で別々のハウスに放飼した。

根崎さんは、「1年目にさまざまな資材を導入しましたが、費用がかかりすぎるため、2年目は不要なものをできるだけカットしました。アザミウマの天敵については、1年目と2年目の防除効果がほとんど変わらなかったので、ククメリスカブリダニだけで十分ではないかと感じています。2年目の実証で20万頭を4回放飼したハウスの方が、被害果がより少なかったので、天敵をこまめに追加して放飼するのが良いと思っています」と2年間の実証を振り返る。
 

地域オリジナルの
防除体系の確立を目指す


循環扇や粘着シートを設置した実証圃。

IPM実証は、2026年度までの3年間実施する。3年目は、根崎さん以外の生産農家にも実証への参加を呼びかけ、「鹿行モデル」と呼べるような地域の実情に合った防除体系を確立するのが目標だ。

IPM実証を主導した茨城県の假屋さんは、「リモニカスカブリダニは低温でも活動するという利点がありますが、比較的コストが高いので、2年目の実証では割愛しました。これまでの実証で、ククメリスカブリダニを4回放飼すると防除効果が高まることがわかりました。しかし、それほど労力をかけられない方は、1回に放飼する頭数を多めにして2回のみの放飼が現実的といえるでしょう。

2年目は循環扇を設置しないハウスを設けましたが、設置したハウスと大きな温度差が見られなかったので、栽培する環境条件によっては循環扇を省略することも可能と考えています。また、天敵を放飼せずに防虫ネットを展張するだけでも被害を防げるのではないかという意見もあるので、3年目は天敵を放飼せず、防虫ネットの展張のみ実施する試験区を設けてみたいと思います」と最終年度の実証を展望する。

根崎さんは「この地域は、周辺でさまざまな作物を栽培しているので、身体をよくはたいてからハウスに入るなど、アザミウマを外から持ち込まないことが重要であることを再認識させられました。茨城県の職員から提供していただいたさまざまな調査データが、防除の効果を高めるうえで非常に役に立っています。今後は、アザミウマの温床となる雑草防除の重要性を研究部の仲間達に伝えていきたいですね」と表情を引き締める。

茨城県鉾田市のIPM実証

2024年度
「アザミウマ類の侵入を防ぐこと」が1年目のテーマ。天敵、防虫ネット、遮熱シート、循環扇などの効果を検証。

2025年度
経費を抑えるため、不要な天敵・資材をカット。アザミウマ類の天敵は、リモニカスカブリダニのみに。

2026年度
ほかの生産農家にも参加を呼びかけ。天敵を使用せずに防虫ネットのみの試験区を設置。地域オリジナルの防除体系を確立。


取材・文/佐久間厚志
写真提供/茨城県鹿行農林事務所

AGRI JOURNAL vol.39(2026年春号)より転載

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