政策・マーケット

『進化する農業の現場-欧州編(1)』 ~会社化していく農業協同組合~

本誌でも「これからのJA」を連載しており、馴染み深い読者の皆さんも多いであろう中央大学大学院教授杉浦宣彦氏のWEB新連載。欧州農業共同組合の現状とそこから読み取る日本への示唆とは。

欧州の農業者のもつ影響力

この10月から本務校である中央大学から来年3月までの在外研究を命ぜられ、ベルギーのルーベンカソリック大学で研究活動をしています。その関係でこのルポも数回、ここベルギーから発信します。
 
欧州は東京とその周辺都市とは違い、一つの都市のサイズが比較的小さく、都市と都市との空間があり、その間に広大な農地を見かけます。鉄道などで風景を眺めていると、大型の機械が導入され、農業の大規模化が進んでいるのがわかります。
 
反面、効率的な生産が行われ、価格も安いかと言われると、そこはかなり微妙なところです。実際、欧州の消費税が高いこともあり、はっきりした比較は難しいと思いますが、消費者目線で見れば、特に西欧諸国の食品物価は高く、日本での生活に慣れている筆者もさほど質がよいとは思えないトマト数個がなぜ500円もするのかと思いながら生活しています。
 
その反面、読者の皆さんもご存じのようにEU全体の農業に対する補助金は巨額であり、全予算の実に4割が農業補助金に充てられています。
 
というのも、これも多くの方が聞いたことがあるかもしれませんが、欧州の農業共通政策(CAP)において農産物の最低価格保証としての価格支持と直接支払い(農業者の収入の保障)が大きな柱となっていることが影響しています。
 
また、政治面では、日本でも農業協同組合の政治力が時々報道されることがありますが、欧州のそれは日本よりも相当激しいもので、EUの委員会で農業団体の意向に沿わない決定がされようものなら、トラクターによるバリケードや農作物(おそらくは商品にならないものが中心でしょうけれど)のばらまきなど、ありとあらゆることが、ブリュッセルの街中で展開されるなど、農業と政治の関係が非常に密であることをひしひしと感じます。
 
さらに、最近日本でもよく取り上げられるSDGs(持続可能な開発目標)のシンボルとして、日本以上に農業が大きく取り上げられているのも特徴です。(もっとも、大規模農業実践の中で必ずしも環境保全につながる農業になっていないのではという批判もあり、ここにも政治の影を感じなくはありません。)
 

金融機関としての役割

このような中、各国の農業協同組合はどうなっているのでしょう。CopaCogecaという欧州の農業協同組合の連合体などを訪問して話をきいてみると、日本と共通した悩みとなっているのはやはり金融の部分のようです。
 
比較的顕著にその傾向があったのはスペインやポルトガルですが、欧州金融危機の折に多くの民間金融機関から預金が協同組合に流れてきたことから、その時期から預金預かりの金融機関としての役割が急速に大きくなってきました。
 
最近では、欧州内での低金利政策などにより金融面からの収益は相当落ちてきており、欧州の農業協同組合全体としても、日本同様に金融機関としての役割を今後どうしていくのかが課題となっています。実際、英国のようにすでに金融ビジネスの部分を第三者に売却しているケースもあり、様々な当地の識者に聞いても農業協同組合の今後のあり方について大きな端境期に来ているという認識を持つ人が多いのが現状です。
 


日本と欧州での
農業協同組合の認識の違い

また、日本では、協同組合というと、生協やJAのイメ―ジかと思うのですが、数年に一度行われる欧州のイノベーションを起こした農業協同組合が表彰されるイベントで表彰された団体のほとんどは、実際には日本でいう組合ではなく、農業法人で、しかも、海外進出まで果たし、多くの加工商品を作っており(中にはプロテインまで作っているところもあります)、上場こそしていないものの、外部からの投資も受け付けているなど、もはや会社組織と何ら変わらない企業体ばかりです。
 
農業の大規模化とともに、組合がつなぎ役ではなく、実際に個別の農家を取り込んで組織化し、農作物加工も行う会社化が進行していることがわかります。各組織ともに取締役会を持ち、デイスクロージャ―もまったく普通の会社と同じようにやっており、利益を出すということに関してもどん欲な姿勢が見られます。
 
ただ、そうなってくると、ある意味、普通の会社と同じようなものでありますから、当然、農業協同組合の経営のガバナンスをどうするかが問題となり、英国・フランス・ドイツなどでは農業協同組合版のガバナンスコードが次々にできてきています。いずれも、株式会社版のガバナンスコードを応用したものになっているようですが、協同組合原則との結び付けもなされており、株式会社版のコーポレートガバナンスルールの改定に合わせて、それらのルールも同時期に改定されています。
 
このように日本の農業協同組合と欧州のそれは大きく方向が違って来ているのですが、日本はそこからどのような示唆を受けるべきなのでしょうか?また、欧州の現状は日本にとって参考になる事例なのでしょうか?次回はそのあたりについて私見を述べたいと思います。
 

PROFILE

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授

杉浦宣彦


現在、福島などで、農業の6次産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。
 

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