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成功する農業後継~バーテン経験が農園を救う

どうしたらもっと高く米を売れるだろうか? 農家の危機を救ったのは、異業種での経験だった。劇的なV字回復で新潟市の一農園の米を、東京六本木でファンを獲得するブランド米にまでのしあげた革命児の事業継承秘話を赤裸々紹介! 新シリーズ『成功する農業後継』。農家の事業承継のヒントが、きっと見つかる。

前記事:成功する農業後継「子供の頃から農業が嫌だった」

自分自身の農業
米の価格を変えられないか

自分の努力とは関係なく、米の価格が下がっていく。
実家の農業は、最低賃金も払えない事業であることを知り”どうやったら自分の米の価格を変えられるか”と考えるようになった。

正章さんは、バーテンの経験を思い起こしていた。自分はバーテンダーとして、一杯千円以上の酒を出していた。一方駅前の居酒屋では、一杯400円の店もある。当然まったく同じ味の酒ではないが、酒は酒、一杯は一杯。自分が働く店には、新潟古町の常連客が「この店じゃないと」と通ってくれていた。それはなぜか? 正章さんは、”品物”を売るのではなく”想い”を売らないと駄目なのではないか、と考え始める。

2003年11月、23歳の若き正章さんは、行動を起こした。新米を1kgずつ小分けにしたものをキャリーバックに詰め、手作りの名刺を携え、ひとり夜行バスに乗った。行き先は東京六本木。正章さんには、ある目算があった。「自分には、バーテンで培った夜の会話力がある。六本木の夜の店に、米と名刺を持って歩けば、誰か買ってくれるのでは。」会話が始まれば、なんとかできる自信はあった。

お金が続く限り、通った。六本木に農家が来ることは珍しく、店のマスターが親切にしてくれるところもあった。その店に来ていたお客さんに、新潟から来た農家のお米だと紹介し、その場で売ってくれた。そんな六本木詣でを2年間続けた頃、六本木農園を始めるオーナーや、大手不動産関連企業役員と知り合うことができた。そして、徐々にではあるが、六本木で米を買ってくれる店ができはじめた。

「これ以上の米を回せない」
父の声に、母は……

2006年、8町(8ha)からの米のうち2割程度を、自身のルートで地元より高価格で販売するようになっていたある日、父が『もう正章のルートにはこれ以上の米を回せない。既存の取引先に迷惑がかかる』と言い出した。父母と自分での家族会議が開かれた。母は、『高く売れたほうがええじゃん』と言ってくれた。まだ大きな借金もあった。母が父を説得し、家の農業は正章に任そうということになった。26歳だった。農地は今も父名義であるが、それ以外の全ての名義と代表を、正章さんが承継することになった。

その後10年で事業は順調に拡大し、米15haに加え、野菜数反の生産を行い、販路の6割を、東京と新潟の外食一般顧客が占めるようになった。2割は米問屋、1割は酒米として近隣の酒造メーカーに販売している。

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