注目キーワード

生産者の取り組み

先進農家の働き方を変えた、ITサービスの活用術

「スマート農業」と聞いて思い浮かぶのは、どんなことだろうか? 多くの農家が手間だと感じている販売管理や会計管理、労務管理などの業務にITを活用すれば、気軽に「働き方改革」ができるのでは……そんなことを話し合うミートアップが開催された。今回はその模様をレポートする。

SNSやクラウドサービスを
農業で使いこなすには?

2月17日(日)、東京・日本橋にある「サイボウズ株式会社」にて、農林水産省などが主催するイベント「ITで農業に働き方改革を広める会議(仮称)」が開催された。当イベントの趣旨は、農業における「働き方改革」を目標に掲げ、IT技術の活用法について話し合うこと。プログラムは、『働き方改革』に成功した農業関係者によるプレゼンテーション、グループワーク、グループワークの結果発表の3部構成で、参加者同士のコミュニケーションを重視した内容となっていることが特徴だ。当日のおもな参加者は、IT技術に関心のある農業者や農業の現場でITを役立てたいと考えるエンジニアで、若年層が多く見受けられた。

司会を務める農林水産省の渡辺一行さんによる挨拶を経て、プレゼンテーションが実施された。当日のプレゼンターは、「株式会社ミヤモトオレンジガーデン」の宮本泰邦さん、「株式会社 山燕庵」の杉原晋一さん、「梨の大澤農園」の大澤幸恵さん、「株式会社Tedy」の林 俊秀さんの計4名。今回はその模様をダイジェストでレポートする。
 

<作業時間の短縮とGAP取得に役立てる>

「株式会社ミヤモトオレンジガーデン」は、愛媛県で柑橘類の生産、販売を行なう農園で、「グローバルGAP 認証」を取得している点でも評価されている。

同社では、「MOG-GAPシステム」という、「グローバルGAP認証」の取得を支援するシステムを使っている。宮本さんによると、本システムの導入後、事務作業における手間と時間の削減と、「グローバルGAP認証」現場としての立場を守ることに成功したという。例えば、農薬や肥料の使用量、柑橘類の成長具合などを一括で管理できるようになったばかりか、日々の入力作業も簡略化されたと話す。

「従来は、時間がある時にまとめて処理していましたが、『MOG-GAPシステム』の導入後、日々こまめに記録できるようになりました。『グローバルGAP』の法令がより遵守されていると思います」。
 

<仲間作りとファン作りに役立てる>

「株式会社 山燕庵」は、野菜の生産に加え、加工と販売事業も手がける企業。代表的な加工商品として、山燕庵のブランド米「コシヒカリアモーレ石川県産玄米」を使った、ノンアルコールの玄米甘酒「玄米がユメヲミタ」がある。

昨年は、農業現場におけるITの普及を進める実行委員会「できる.agri」と手を組み、ぬか袋カイロ「ぬくぬくのぬか」を製品化した。製品化に必要な資金は、クラウドファウンディングで募り、募集開始からおよそ1ヶ月で目標金額を達成したという。提携先となる企業やファンとつながるためにITを活用している成功例である。
 

<ネットでの直販と事務作業の効率化に役立てる>

埼玉県久喜市で、夫婦二人で梨農園を営む「梨の大澤農園」の大澤幸恵さんは、およそ9年前、作業現場にIT技術を導入。そのきっかけは、農園の経営に難しさを感じたことだと話す。「当時は、共同青果場に卸すかたちで梨を販売しており、直売はほとんどできていませんでした。また、お盆を過ぎると梨の価格が急落するため、その後の収益はあまり見込めない状況でしたね」。

梨の直売に活路を見出した大澤さんは、まずはネットショップを開設。SNSも活用しつつ、農園と梨の広報につとめた。

「ちょうどその頃、ブランド梨『彩玉(さいぎょく)』の生産を始めました。あまり普及していない梨だったこともあり、やがて『大澤農園』は、県下最大級の『彩玉』の農園になりました」。

収穫が始まった2014年には、全国放送のバラエティ番組にも出演。やがて、多くの注文が舞い込むようになったと続ける。

多くの注文をさばくには、かなりの労力と時間がかかる。しかし、ネットショップ作成サービス「カラーミーショップ」に販売サイトを移したところ、カード決済への対応などが可能になり、事務作業量が軽減されたという。また、業務拡大や先代の農場主の引退に伴い、日々の作業量が大幅に増えたが、To Do管理アプリ「トレロ」を活用したことで、効率よくタスクをこなせたと明かした。

大澤さんは、これらに加えクラウド会計ソフトの「freee」や、「Google マイビジネス」「Google ドライブ」といったアプリも利用している。「これらのサービスやアプリに助けられるシーンは多々あります。“難しそうだから”と敬遠せずに、まずはトライすることをオススメします」。
 

<生産現場の品質管理に役立てる>

“生産現場におけるスマート化を目指す”と語る「株式会社Tedy」の林さんは、オランダの環境機器メーカー・プリバ社が開発したシステム「Priva」を利用している。

「Priva」は、大規模温室の環境を把握・制御するシステムで、植物にとって最適な環境を作る際に役立つという。「ベテラン農家の勘があってこそ成り立っていた作業も、算出された数値を見れば、初心者もこなせるようになりました。こちらも栽培方法を教えやすくなりましたね。若手育成の手助けにもなるシステムだと思います」。

“共有言語”をベースに
『課題』を導き出そう

イベントの後半では、「サイボウズ式問題解決メソッド」を活用して、チームでの問題解決方法がレクチャーされた。そのなかで提示されたのが、「理想」と「現実」、「事実」と「解釈」というキーワードだ。

あらゆる問題は、理想と現実に大きな落差が生じた結果、起きるもの。反対に、理想と現実のギャップを解消することで、多くの問題は解決されると、サイボウズ株式会社ビジネスプロデューサー・中村龍太さんは語る。

「現実には、その状態を作り出している要因があります。それらの要因を洗い出すと、課題が明確になり、解決に向けて踏み出すことができます。こうした論理的思考の特長は、問題に対してポジティブになれる点にあります」。

「『事実』とは、実際に起こった、確証のある出来事を指します。自分の目で見たもの、耳で聞いたことは、だいたい『事実』にあたります。一方の『解釈』は、頭の中で作り出した事象です。例えば、ある出来事を前にして、自分が感じたこと、思ったことが『解釈』となります」。

問題解決のファーストステップは、理想と現実、そして事実と解釈を切り離すことだという。これらの可視化ができる、ワークシートも配布された。

その後、数名ずつのグループに分かれ、ワークシートをもとに問題解決に取り組むグループワークを実施。

例えばあるグループは、農業法人の社長自身が日々膨大な業務を負担している点を『問題』として取り上げた。そのうえで、「業務量が多いにも関わらず、実績に繋がっていないこと」を『現実』に、「3つの新規案件を獲得すること」を『理想』に設定。さらには、財務管理やウェブショップとSNS運営といった日々の細かな作業を『原因』として洗い出した。ここから、それぞれの作業の費用対効果検証を行うことを『課題』として導き出したという。

一連のグループワークは、『理想』や『現実』といった共通言語を基盤とした、話し合いが大切であることを学ぶ場となった。

「ITで農業に働き方改革を広める会議(仮称)」は、今後も会を重ねる予定。農業経営における課題にフォーカスし、話し合いを通じて、ITを使った解決法を導き出していくという。
 

問い合わせ

主催:農業に働き方改革を広める会議(仮称)


Photo&Text:Yoshiko Ogata

関連記事

農業機械&ソリューションLIST

アクセスランキング

  1. 【動き出したスマート農業技術活用促進法】生産方式革新実施計画を11件認定...
  2. 注目される『バイオ炭の農地施用』。温暖化対策に加え、Jクレジット活用で収入アップにも期待!...
  3. 軽トラカスタムの新潮流!親しみやすさが人気の『レトロカスタム』
  4. あのランボルギーニから最新モデル!? クールな「高機能トラクタ」5選
  5. 東京オートサロン2024でみつけた、最新の軽トラカスタム一挙公開!
  6. 今買えるEV軽トラから特定小型まで! 農業で活躍するモビリティを一挙公開!...
  7. 玉ねぎ栽培におすすめな肥料とは?育て方に最適な追肥の時期や方法を紹介!...
  8. 【イチゴ編】症状別で見る! 生理障害・病害虫の原因と予防の基礎知識
  9. 低コストで高耐久! 屋根の上で発電もできる「鉄骨ポリカハウス」
  10. その「二価鉄」効いてる? 専門家に聞いた、「鉄欠乏」に効くバイオスティミュラント資材とは...

フリーマガジン

「AGRI JOURNAL」

vol.34|¥0
2025/01/21発行

お詫びと訂正